［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

俺には――芸能人の友達が一人だけいる。














そいつはまあ芸能人といっても
振る舞いはその辺にいる女子となんら変わらないように見えた。

笑ったり泣いたり怒ったり、とにかくうるさい奴って印象が強い。
何言っても明後日の方向に勢いよく打ち返してくるから会話のキャッチボールは、
俺が土だらけになって転がりながら捕球することが多かった。
よく食べるやつで、何食わせても美味しい美味しいって言うやつだった。
そいつはサメが好きで、家にもサメのぬいぐるみがたくさんあるらしく、
サメのことになると一晩中でも話してられるような奴だ。
後輩の九頭竜坂と仲がいいらしい。
仲がいいらしいが、どういう関係かは詳しく知らないし、
他人の色恋とか男女関係とかそういうのに首ツッコまないようにしてるので、
なんか詳しく知ろうとも思わなかった。

何かにつけて人と人を引き合わせたり、
繋がりがないはずの二人を繋げたり、
いつの間にか笑顔で大きな輪の中心にいたりして、
そこは、大した奴だなと思ってた。


少しだけ見方が変わったのは、
そいつがライブを行っている姿を見たときだ。
二人組のアイドルユニットを組んでたことも知らなかったし、
どんな声で歌うかも知らなかった俺が初めて見たライブでのそいつは、
沢山の観衆を魅了して、俺の心も奪っていった。

――すげえな。

語彙が消失した俺の感想は、その四文字に集約された。
何もかも、批評の言葉を吹き飛ばすような、心に直接働きかけてくるようなエールが、
誰かの気持ちを高揚させて、一体感と共に空へと羽ばたかせる。
とぼけた顔の、ピンクの髪の、俺と大して歳も変わらない少女のことを心から凄いと思ったし、
ああ、これが芸能人なんだな、と実感したことを覚えている。


それでも。
そいつは舞台を降りたら俺の友達の顔をした。

一緒に馬鹿やって、一緒に笑い合って、一緒に遊んだし、容赦なくツッコんだ。
あいつ俺なら割とどう扱っても大丈夫と思ったのかものすげえ弄ってきやがるから、
こっちも遠慮なく『面白サメ女』だの何だの言って、めちゃくちゃしたと思ってる。
お陰で芸能人のあいつが好きな女子からは蛇蝎の如く嫌われたっけか。
まあでも、あっちが友人として扱ってくれる以上、
こっちも友人の一人として扱うのは当たり前で、俺たちの関係がそれでいいなら、
そういうものなんだとも思ってたし、俺はその距離感が楽しくもあった。


――数か月前だ。11月のことだったと思う。

俺の、唯一の芸能人の友達の――群条エナが、
国内での活動を休止する旨の連絡を入れてきた。
海外に留学が決まり、そちらに引っ越すらしい。

最初は、あまりピンと来ていなかった。
海外に留学するとはいえ、あいつのことだからきっと、
現地の人と新しいコミュニティを作った報告や、
そっちの国での美味い食べ物をたくさん頬張っているような写真を
頼んでもいないのにわんさか送ってくるものと思っていた。
ホームシックにもなるかもしれないし、
なんなら今は海外とも遊びで繋がれるから、今年受験が収まった辺りで、
また声掛けてくるかなとか、楽観的に思っていた。

――あれから。
群条エナからIBALINEが来ることはなかった。

忙しいのだろう。
アイドルの海外留学だ。
語学、宗教観、現地で学ぶことや、覚えるパフォーマンス、
時間はいくらあったって足りない。
国内で普通の学生をしている自分ですら、国内の大学を受験するに当たって、
友人と連絡を出来るだけ遮断しているくらいだ。それらが雑念になるのは良く分かっていた。

きっとそれは、群条なりのけじめであり。
そして、あいつのことだから、連絡自体も必死に我慢して、
それでも知り合った人たちの想いを全て載せて羽ばたこうと藻掻いているのだろう。

だから。
俺は連絡できなかった。
邪魔をしたくなかった。あいつの雑念になりたくなかった。そんな気持ちももちろんある。
だけど、それよりなにより一つでも連絡を入れて、それが返ってこなかったとき。
きっとそれは、本当の意味でのさよならになってしまうと思ってしまったから。


「……まあ、友達だからな」


俺は、あいつの友達で、一人のファンであり。
それは、きっと、無言でも伝わると思ってるから。


――この終わりは、自分の手でつけなくても、
いつか勝手にピリオドは打たれるだろうから。


☆　　　★　　　☆　　　★　　　☆


――その終わりは、自分の手でつけないといけない。
そう思っていても、送信ボタンが押せないでいた。


ソラコーの寮の自室。男子寮103号室。
それほど広くもないが、物が殆どなくなった今は一人にはあまりにも広すぎる。
ベッドも処分したし、テーブルも処分したので足を伸ばせるくらいの広さになっていた。
開けっ放しの窓から、長かった寒い冬を忘れさせてくれるような温い風が入ってきている。

入学時から、長いこと使ってきたこの寮室とも、卒業でお別れだ。
卒業前にかなり酷使したせいでエアコンの周りとかどす黒くカビていたりしたので、
それも綺麗に拭き取って、エアコン自体のフィルターも自費で取り替え、恩返しは完了している。
ただ壁紙なんかは――張り替えるのかもしれないなとも思う。
来年入ってくる、新入生がこの部屋を使う前に。

それらの変化に、若干の寂寥は感じるけれど、それほど感傷的にもなってはいない。
自分の将来を夢想して勉強に励み始めたころから、
一年後や二年後に自分がどうなっているかについて考えない日はなかったし、
その中で決まった覚悟や、諦めなければならなかったものも結構ある。
人間はこうやって、変化みたいなものに正常に慣れていくんだろうなとも思った。
生まれて初めて、自分の決断で行き先を決められたことが自信ともなったし、
恐らく、今後こういう選択肢を何度も何度も繰り返していくことが、
大人になるということなんだろうなとも思えた。


春の風が部屋の中に入ってくる。
床に置きっぱなしになってる『紙』が、ハタハタと揺れる。


……風凪マナカのことを考えている。
この一年間、ずっと考えていた受験という荷物が、とりあえず置き場所を確保したからだろうか。
空いた隙間や余裕でまず考えたのは、あいつのことだった。

IBALINEの画面。
入力されている文字は、女々しくも二時間ほど前に打ち込んだ文字だ。
あとは送信ボタンを押すだけなのだけれど、それを拒んで部屋に寝転がっている。
子供かよ、と自分でも思う。















風凪マナカは後輩だ。
一学年下で、今年ソラコーの３年生になる。
中学からの知り合いで、何かとどっかに遊びに行ったり、よく一緒に行動していた。
告白に聞こえるようなことを言ったら見事にフラれて、一番格好悪いところも見せている。
一般的な男女の枠に収めたがる周囲には、まあ簡単な関係に見えるんだろうけれど、
俺はそう思ってなかったし、風凪もきっとそうだろうなとは思っていた。

風凪は、俺のせいで一度死に掛けている。

俺に出会わなければ負わなくてよかった傷を負い、
そして、傷を負った記憶すら奪われて、今も暮らしている。
本当に、何をしても償いきれない罪だと思う。

天井の電灯に、右腕を翳した。
そこに這い回る点線の入れ墨に、小さく嘆息する。

医者になることを決めたのは、風凪の事件が起こるかなり前の話だ。

それでも、あの時、自分の生半可な医療の知識で風凪を正当に救えなかった記憶が、
己の異能に頼り、禁忌を犯して失った己の視力を、
風凪マナカに背負わせるかもしれなかったなんて業が、
俺の決断を後押ししていないなんて思っていない。

罪滅ぼしというにはあまりにも自分勝手だし、
そんなもので罪を滅ぼせるほど俺が風凪にしたことは軽くない。

この三年余り。
ずっと傍にいて、いつあいつが己の傷に気づくか。
或いは、俺の施した『治療』にも似た奇跡が綻ぶか。
ずっと気が気でなかったのも確かだ。
それがあいつと一緒にいる理由の半分であったことも認める。

ただ、幸い俺のあの日掴んだ赤い線は、風凪マナカの命を体に繋ぎ止め、
今も風凪に『健常な身体を以って正常な人生を送ること』を許してくれていた。



だから。
きっと、あいつと一緒にいる理由の「残りの半分」はこれこそ感傷だと思う。
「あいつに対してのしなければならないこと」は、どうやら全うされていて、
後に残っているのは「あいつに対して俺がしたいと思うこと」なのだろう。

単純に言い換えれば。
きっと、傍に居たかったんだと思う。

それがどんな関係でも、俺は風凪マナカと一緒に居るのが、楽しかったんだと思う。
あいつにフラれた後、あいつが俺から離れていかないことを疑問に思っていたけれど、
俺だってあいつから距離を置くようなことをしなかったのは、
きっと、一人の人間として、友人として、風凪マナカと過ごした中学・高校生活が、
俺にとって他の誰と過ごすよりも楽しいことだったからだ。

散々からかわれたり、玩具にもされたなと苦く笑う。
きっと、あいつは変なところでネガティブだから、
「俺があいつに何されても怒らない理由」を、
「センパイにとって私がどうでもいいと思ってるから」とか思ってんだろうけどな。
俺はただ単に、「お前が楽しそうにしてるのが、一番嬉しかった」んだよ。

こんな俺にも、俺で笑ってくれる友達が出来るんだって。

誰かを不幸にするしかできなかった俺でも、楽しませることが出来たぜって。
伝えられない場所に逝った人らに胸張って言いたくなるくらい。

それくらい、ずっと、
その関係の形を曖昧にしたままでも、
あいつが「本当にセンパイは馬鹿ですね」と笑ってくれるのを見てるのは、
……本当に、楽しかったんだ。


でも、それに甘えてもいた。
あいつを一番傷つけたのは俺で、
きっと、これからも一緒に居れば、風凪に必要のない傷みが降りかかる可能性も０じゃない。
俺があいつの傍で友人でいたいというワガママで、
そのワガママが俺の一番の、そして最初の友人を傷つけるんだとしたら、
きっと、この手は、俺から離さないといけないものなんだ。

群条エナとの関係とは違う。
風凪マナカとのそれは。

他ならぬ、俺の手で、ピリオドを打たないといけないものなのだから。

多分それを送信してしまえば、
きっとそれが道を分かつ最初の緩慢なピリオドになると知っていて俺は。

風凪マナカのIBALINEに、送信を押した。






















『――創峰大学、受かった』


春の風で、床に置いたままの合格通知の封筒が揺れた。

志望校変更も、
そもそもどこを目指していたかも、
何も伝えはしなかったけれど。

送られたそれは、自分にとっての最初の一歩で。
それぞれの道に進みだす、別れの一歩でもあったと思う。



































☆　　　★　　　☆　　　★　　　☆





――そんなことが、俺の脳に記憶として刻まれたハザマ時間。
胸の内に残る郷愁を無言で弄びながら。


俺が、ふと後ろを向くと。

そこには、着いてきたはずの、
風凪マナカの姿が、どこにもなかった。






――どこにも。
なかった。


――最初から『何処にも居なかったか』のように。


「…………え？」

特に何もしませんでした。

武術LV を 2 UP！（LV35⇒37、-2CP）
百薬LV を 3 UP！（LV32⇒35、-3CP）
合成LV を 5 UP！（LV0⇒5、-5CP）

カーラクータ を習得！
アスプ を習得！
クワシール を習得！
ソウルミュージック を習得！

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

特に移動せずその場に留まることにしました。
体調が全回復しました！

［826 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［447 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［491 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［198 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［402 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［323 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［246 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［182 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［103 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［145 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅
［141 / 1000］ ―― 《沼沢》いいものみっけ
［100 / 100］ ―― 《道の駅》新商品入荷
［277 / 400］ ―― 《果物屋》敢闘
［35 / 400］ ―― 《黒い水》影響力奪取
［147 / 400］ ―― 《源泉》鋭い眼光
［77 / 300］ ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
［93 / 200］ ―― 《図書館》蜂のように刺し
［67 / 200］ ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
［43 / 200］ ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
［66 / 100］ ―― 《珈琲店》反転攻勢
［100 / 100］ ―― 《屋台》更なる加護
［55 / 100］ ―― 《苺畑》不安定性
［0 / 100］ ―― 《荒波》強き壁
［0 / 100］ ―― 《小集落》猛襲
［0 / 100］ ―― 《落書き壁》リアクト



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　

　　　･････ヴオオォォォ･･･ッ！！

　

　

　

チャットに響く走行音。

　

　

　



　

　

　　　ヴォンヴォンヴォンヴォンッ

　

　




　

アルメシアがバイクで登場する。

　

　

　








　








　

　

　







　

　

　　　――ザザッ

　

　

　

　

チャットが閉じられる――