
納屋の鍵を外した探偵は、ゆっくりと扉を開いた。
納屋の中には枝バサミや鋸、鎌やスコップなどの造園用品が収納されていたが、いずれも古く、錆び付き、埃と蜘蛛の巣にまみれている。
「フン、ただの古い納屋じゃないですか!」
ストライクスは刺々しい態度で吐き捨て、そのまま納屋の扉を潜ろうとした。
「待てって」
探偵はサッと腕で進路を塞いで彼を制した。
「危ないなあ、せっかくの証拠が台無しになるところだ。ほら、床をよく見なよ。」
探偵が言う通り、厚く埃の積もった床には、幾つもの足跡がくっきりと残っていた。
「長年、誰も入っていなかったから、当然埃も積もるさ。鍵を付け替えたからって油断してるよな。見たところ何度も入っている。何をしに入った?」
探偵は足跡の大きさや特徴を調べながら、楽しげに呟いている。
「女物の靴…全て同じものだな。まるで制服だ」
その足跡を追っていくと、棚に置いてある小さな道具箱が目についた。
厚く埃の積もった室内にありながら、ほとんど埃がついていない。
「いかにもじゃないか」
探偵が道具箱の蓋を開けると、中にあったのは、銀色の金属ヤスリだった。
「他の道具は錆だらけなのに、このヤスリは綺麗なもんだ」
それを摘み上げて見ると、金属の粉が付着していた。
「…何を削ったんだ?」
ふと、探偵は納屋の窓を見た。
埃があちこち取れている。つまり、窓に触れ、開けた者がいる。
探偵は納屋から出ると、ぐるりと外周を回り、窓の外側に移動した。
「…これか」
窓の外には、キラキラと光る金属の粉が散らばっていた。
屈み込んで確認すると、それはヤスリに付着したものと同じだった。
「…ストライクス警部。ひとつ、聞いていいかな」
屈み込んだまま、探偵は警部に問いかけた。
「何です!?」
苛立ちを隠さぬ声は、やや焦りも含んでいた。
この警部も既に悟っていた。自分たちが掴み損ねた真実を、この探偵が今にも掴もうとしていると。
「遺書。見つかった遺書には、なんて書いてあった」
ストライクス警部は歯噛みをし、忌々しげに吐き捨てた。
「ええ!?くっ…普通の遺書でしたよ。「私は許されない事をした。メイド達と私の命を以って償うこととする。私の全財産は、郊外のモザイシズム孤児院に寄付するよう願う。」と…」
探偵は手帳を開くと、タバコを一本取り出し、ニヤリと吊り上げた口の端に咥えた。
「ーーーーーー決まりだな。さあ、もう一つだけお願いだ警部殿。今すぐモザイシズム孤児院に連絡をして、勤務経歴の長い職員を一人呼んでくれ。ああ、
俺の灰色の脳細胞が活動を始めた。」
脳細胞どころか全身灰色のくせに、と、ニコレットは内心毒づいたが、ふと見たその目の輝きに気圧され、何も言えなかった。
ーーーーーー探偵はタバコに火をつけた。
鍵のかかった扉。
毒によって死んだメイドと主人。
ほとんど口をつけられていないワイン。
蝋燭の足りない燭台。
鍵のかかった引き出し
内側から割られた窓。
窓枠の穴と、その間に走る一条の傷。
錠前を付け替えられた納屋。
納屋の足跡。
削り取られた鍵。
不在のメイド達。
善意の遺書。
第一発見者のニコレット。
小さな手帳を閉じ、静かに目を開くと、短く、されど明瞭に、探偵はニコレットに告げた。
「ーーーーーー食堂に皆を集めてくれ。」
その目は
「それと…」
ニコレットの長い前髪越しに、探偵と目が合う。
先ほどまで仄日のように燃えていたその目は、どこか悲しげに、憐むような色を帯びていた。
そして探偵は口を開く。
「ニコレット、君はーーーーーー旦那様に感謝するべきだな」

[860 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[443 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[500 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[193 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[400 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[320 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[225 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[161 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[91 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[144 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
[129 / 1000] ―― 《沼沢》いいものみっけ
[100 / 100] ―― 《道の駅》新商品入荷
[221 / 400] ―― 《果物屋》敢闘
[28 / 400] ―― 《黒い水》影響力奪取
[92 / 400] ―― 《源泉》鋭い眼光
[58 / 300] ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
[64 / 200] ―― 《図書館》蜂のように刺し
[51 / 200] ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
[23 / 200] ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
[14 / 100] ―― 《珈琲店》反転攻勢
―― Cross+Roseに映し出される。
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エディアン 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
久しぶりにチャット画面に映るふたり。
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エディアン 「お、お久しぶりです皆さーん・・・」 |
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白南海 「・・・どーも、どーもー。」 |
引きつったような表情。
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エディアン 「お・・・おや・・・浮かない顔ですねぇ。 何か、ありました・・・?やっぱりありました・・・!?」 |
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白南海 「えぇ。・・・・・虫が少々。」 |
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エディアン 「・・・・・奇遇ですねぇ。私も虫が・・・・・・・・・いっぱい。」 |
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白南海 「・・・こちらも、実は・・・・・いっぱい。」 |
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エディアン 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「さ、さぁ・・・・・しっかりこの役目を果たしましょうか。」 |
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白南海 「えぇ・・・・・仕事をサボるのは良くないことっすよね。・・・いやほんと。」 |
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白南海 「そういえばアレ、えっと・・・・・アダムスだっけ?あれが――」 |
不自然にチャットが閉じられる――