
屋敷の外に移動した探偵は、ニコレットにあれこれ聞きながら、隅々まで様子を確認していた。
そして、事件が起きた部屋の外にたどり着くと、外側に向かって割れた窓と、部屋の中から窓を割って投げ捨てられたと思しき灰皿をしげしげと見つめた。
「ーーーーーーどうして窓開けなかったんだろうなぁ。鍵は開いていたのに」
ぼそり、と探偵は呟き、窓枠をそっと撫でた。
「あ」
探偵は何かに気がついたようで、目を軽く見開いて声を出した。
「どうしたっスか?」
ニコレットが近寄って聞くと、探偵は指先で窓枠をつついた。
そこには両開き窓が合わさる部分を挟むように、小さな穴のようなものが二つ空いていた。
「右の窓枠と左の窓枠、同じ大きさの穴が1つずつ空いてるな。しかも左右対称だ。なあニコレット。確認するが、君はこれを見たことはなかったんだね?」
「ハイ…3日くらい前に窓の掃除をした時は、見当たらなかったっス」
「やっぱり最近空けられた穴だな…ん?」
探偵は窓枠を凝視した。
すると、先ほどの2つの間に位置する、窓枠の淵の部分に、細く深い凹みがあった。
「何だ…?何か硬いものを、強く押し当てたような跡だな…傷になってる」
探偵は目を細めて、忌々しさと喜びが混じったような、不思議な声で呟いた。
「…そうか。開けられなかったんだ…」
探偵は踵を返す。
「チャコール先生、もういいんスか?」
呼び止めるニコレットに、探偵はそっけなく返事する。
「そこはもう大丈夫。だいたいわかったよ。そうだな…あとは」
探偵はチラリと、庭の片隅にある小屋を見た。ニコレットも、その視線に気づく。
「ああ、あれは昔使ってた庭道具がしまってある納屋ッス。今は外部の庭師さんに手入れしていただいてるので、誰も使ってないッス」
小さな納屋の方へと歩いてゆく探偵に、ニコレットは小走りで追いかけながら説明した。
探偵は納屋の前に辿り着くと、ジロジロと外観を観察して、一言ぼそりと呟いた。
「うん…やっぱり妙だ」
「どこがッスか?」
首を傾げるニコレットに、探偵は気怠げに、しかし優しさも含んだ声で説明する。
「ほら、見てごらん。錠前が真新しいだろう?誰も使っていない小屋の錠前を、わざわざ新調するかね?」
「確かに…」
ニコレットは持ってきていた鍵束を確認する。
「でも、屋敷の鍵束には古い鍵しかないッスよ…?」
探偵は皮肉っぽく笑う。
「はは、悪意たっぷりじゃん。誰も中に入れないつもりだったんだろうな」
不安げなニコレットに視線を移すと、ニヤリと口角を吊り上げた。
「…どうする?開けちゃおうか」
「え、でもどうやって…」
ニコレットが困惑していると、けたたましい怒鳴り声と共にストライクス警部が駆け寄ってきた。
「あ!!!いた!!!勝手に現場を弄らないでもらえませんかね!?チャコールさん!!」
探偵は何でもないような様子で、警部に伺いを立てる。
「丁度良いところに丁度良い人が来た。なあ警部殿、納屋の錠前が勝手に付け替えられてるらしいんだが、「開けて」もいいかい?」
探偵の指さす方を訝しげに見ながら、ストライクス警部は鼻で笑った。
「鍵が無いという事ですか?…フン、まあいいでしょう。開けられるものなら開けたら良いんじゃあないですか?まったく!日が暮れる前に終わると良いですね!」
完全に探偵を馬鹿にした様子のストライクス警部を、ニコレットは冷ややかな目で見ていたが、不意に納屋の方から、パチン、と何かが爆ぜるような音が聞こえた。
ニコレットとストライクス警部は、同時にそちらを見る。
そこにいたのは、道具も持たずに、外した錠前を指先で弄んでいる探偵だった。
「
鍵、開きましてございます。ーーーーーーどうだい?」
「なッ…!?一瞬で…!?何を、何をしたんです!?」
驚きのあまりストライクス警部は探偵の両肩を掴む。その反動で、探偵の手から錠前が落ちた。
ニコレットは見た。錠前の鍵穴から、微かに煙が立っているのを。
片や胡乱な探偵は、心底面倒臭そうに、しかしどこか誇らしげな顔で、説明になっていない説明を弁ずる。
「ま、なんだ。探偵の前では、如何なる隠し立ても無意味ってことさ。」

[866 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[445 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[500 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[194 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[397 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[310 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[221 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[160 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[90 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[137 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
[5 / 5] ―― 《美術館》異能増幅
[128 / 1000] ―― 《沼沢》いいものみっけ
[100 / 100] ―― 《道の駅》新商品入荷
[196 / 400] ―― 《果物屋》敢闘
[28 / 400] ―― 《黒い水》影響力奪取
[58 / 400] ―― 《源泉》鋭い眼光
[32 / 300] ―― 《渡し舟》蝶のように舞い
[58 / 200] ―― 《図書館》蜂のように刺し
[39 / 200] ―― 《赤い灯火》蟻のように喰う
[8 / 200] ―― 《本の壁》荒れ狂う領域
―― Cross+Roseに映し出される。
「うぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
「ひぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
突然の絶叫と共に、チャットが閉じられる――