［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

世の中には危険なものが溢れている。

生まれ持った異能にはオンオフの概念が存在していた。
常時発動型ではない、任意発動型。自分の意思によって切り替えができる。
先生に連れられて家を出たあの日から、あまり長くつけることも無くなった異能。
それが今は付きっぱなしのまま世界の色彩は赤一辺倒になった。
危険なものはより濃く赤く。感覚的には瞬きひとつでパチンと電気でも消すように対象を入れ換えられる。
己にとっての弱点ならまだしも、他人にとっての弱点を見るのはすっかり嫌になってしまった。
隠し事を覗き見しているのだから気分が悪い。他人を視界入れるのはまだ怖い。
とはいえニコラに向かい来る脅威──……父親を察知するのには付けている方が都合がいい。

でもなんだか疲れた。異能を長時間使うのは久々だからかもしれない。
目を閉じて早々に意識を手放そうとして、しかし電話の音に引き戻された。
うるさい。今は電話に応答する元気なんて無いのに。
仕方なく起き上がって手を伸ばして、しかしそこでぴたりと静止した。

「……？」

スマートフォンがやけに赤い。そんなはずは無い、お気に入りのブラックモデルをわざわざ買ったのだ。
急に赤く色づくなんて果物でもあるまいし。ということは異能による反応。
オートで自分の弱点を探るようにしてあるから、つまりこれは俺にとっての弱点とイコールになる。

──何故？　自分のスマートフォンが弱点に？

違う、先ほどまでは弱点ではなかった。
電話自体が弱点なのではなく、着信相手が弱点という意味ではないのか。慌てて画面に浮かんだ文字を追う。

非通知。

どうする、無視して寝るか、取るか。数瞬の迷いのあと電話を手に取った。
今思えばそれは警告以外の何物でもなかったそれを、見逃した。
自分の異能が最大限に危険を告げていたのに、それを無視してしまった。

「……もしもし？」

「こんにちは。世論ね？」

「ッ、かあさ、」

ひゅ、と自分の喉がやけに渇いた音を立てるのを他人事のように聞く。
咄嗟に電源ボタンに手が伸びた。
驚きと恐怖で身が竦んでしまった。手が震える。
途轍もなく悪い予感がした。背筋が凍る。どうして。なんで今更。この人は、この電話番号を、一体どこから。

「母、さん……なんで……」

「ああ、やっぱり世論ね。ちゃんと繋がってよかったわ。 　切らないで頂戴ね。久々の親子の会話でしょう？ 　今日はね、世論に教えてあげたいことがあるの。それで電話したのよ」

口がからからに渇いていく。唾が呑み下せない。声が上手く出せない。
ごめんニコラ。親に見つかったらって考えた時、きっと凄く怖かったよな。
偉そうな事言っておいて……俺だって本当は怖い。

「本当に久しぶりね、世論。……随分あなたを探したわ。 　あなたがあの男に連れ出されて家から逃げたあの日からずっとね」

「……、」

「私達、あなたが居なくなってとても苦労したわ。嫌な目にあったわ。 　虐待だとかネグレクトだとかなんだとか。外の連中に根掘り葉掘り聞かれて。 　ご近所さんにも色々言われて」

どうすればいいんだろう。
矢継ぎ早に降りそそぐ母の言葉を頭が受け入れようとしない。心が拒否している。
怖い。やめたい。聞きたくない。聞きたくないのに。どうすれば。
スマートフォンを握った手は凍り付いたように動いてくれない。

「あなたが居なくなったせいで、お父様にとても──とても怒られたのよ。 　親戚の皆さんにも酷く詰め寄られたわ。 　家名に泥を塗ったって。一族の面汚しだって。 　どうして普通にできないのかって。怒鳴られたの。 　全部あなたのせいよ」

「ご、めんなさ、」

「今更謝ったってもう遅いわ、世論。全部あなたが異能なんて持って生まれたから。 　あなたがおかしいから」

つっかえつっかえ必死に紡いだ謝罪の言葉をすぐさま捩じ伏せられる。
異能を持って生まれたのは俺のせいじゃない。
普通じゃないのは俺のせいじゃない。そもそも父さんや母さんの言う普通ってなんなんだ。
先生は前の歪な状態こそがおかしいって、普通じゃないんだって俺に言ってくれた。
俺はおかしくない。おかしいのはそっちじゃないか。

そう言いたいのに、一呼吸だって出てきやしない。

「あの男もあの男よ。人の家の事情に首を突っ込んで散々好き放題言った挙げ句、 　あなたを誑かし込んで勝手に連れていったんだから。 　きっとあなたのおかしさに影響されてしまったんだわ」

「……せん、せいは、かんけいない」

「あら？あの男の肩を持つの？子供が親に口答えするの？ 　それはいけないことだって教えたのに。 　そんなことも分からなくなってしまったのね、世論」

鳩尾のあたりがひどく冷たい。吐きそうだ。電話を切りたい。早く電話を、早く、

「……そうそう。世論に教えてあげるって最初に言っていたわね。 　今日はとても良いことがあったのよ」

電話を切りたい。

「私達ね、家族をやり直すことにしたの。そうすればお父様は今までのこと…… 　失敗作になったあなたのことを不問にして、私達の過ちも許してくれるって仰っていたわ！」

でんわを、

「異能を持っていない普通の子供を引き取って養子にするのよ。 　そうすれば全部元通りになるの。最初から全部やり直せるのよ」

でん、わを、はやく、

「子供の名前は菱形世論。お父様が決めた通りの世継ぎの名前に。 　お父様が言う普通の子供を、ちゃんと普通に育てるわ。 　あなたみたいにはしないから安心してね」

きらないと。

「だから、あなたは」

でんわをきらないと、おれは。

「もう要らないのよ」

とりかえしのつかないことになる。










足元が崩れていく感覚がする。
立っている場所がごっそりと消えてしまったような、いやな感覚がする。
急な浮遊感に、咄嗟に周囲にある物に掴まろうとして手が虚しく空を掻いた。
落ちる。落下している。一体どこに。床はどこにいった。
もうとっくにフローリングに激突していてもおかしくない時間が経過したのに、何も起こらない。
俺はどこへ行くんだ。下に向かっていることだけが辛うじて分かる。

歯を食いしばって衝撃に耐えようとしたのに、一向に痛みも何も来ない。
体勢は仰け反って、頭の比重に従って真っ逆さまに落ちていく。
ぐらついた感覚だけが体を包んでいた。
どうしよう、どうしよう、藻掻いても何も掴めない。何でだ。どうして。
風がびゅうびゅうと煩い。背中に当たる風がやけに冷たい。
胸がざわざわする。何が何だか全く分からないのに焦燥感だけがじりじり胸を焼いていく。

怖い。

落ちる。堕ちる。墜ちる。滑り落ちていく。俺の知らない、遠い向こう側の世界へ。

神様ってそんなに俺の事嫌いだったのか。
別に俺だって無神論者で信仰心は無いし、そんな眉唾物の神秘的存在を心の底から信じてるわけじゃないけど。
それでも欠片くらいは神様の存在を信じたかった。信じてみたかったんだ。
先生に会えたこと、この街に来られたこと、俺を友達だって言ってくれた皆に会えたこと。
全部俺一人だけの力では成し得ないことで、運命の巡り合わせはまるで奇跡みたいだったから。
だから神様は本当に居るんだって、そう思えていたのに。

ここに居たい。皆と一緒の場所に居たい。
大好きな人達が居るこの世界にずっとずっと居たい。
先生の元を離れて初めて見つけた、息の出来る場所に居たい。
陽だまりみたいに柔らかくて暖かくて優しい、世界の中に居たい。

居たい。居たかった。居られると思っていた。
けれど。

俺はもうここに居ちゃいけない。この世界はたった今、俺が居て良い世界ではなくなった。
じゃあ俺が居て良い場所はどこなんだ。
世界から否定されたら、落ちる場所なんて決まっている。
世界から否定された者が、居なければいけないのは。行かなければならないのは。落ちていくべきなのは。

・・・・・・・・・・
落ちていくべき場所は。










八奈見に伝えたい言葉があったのに。こんなことになるなら早く言っておけばよかったな。
俺の馬鹿。意気地なし。後悔はいつも先に立ってくれない。

それでもまだ俺にはまだやるべき事がある。
たとえこの運命を変えられなくとも、まだ出来ることが残ってる。
どうせならニコラに纏わり付く呪縛を切ってから落ちたって遅くないだろ。
俺はこのまま落ちるけど、せめてそっちだけは助かって欲しい。
たとえお前がアンジニティから来てたって構わないんだ。
友達の幸せをささやかに願うくらいは許してくれよ、神様。

十神のこと傷つけた。結局俺ってあの日から何も変われてないんだな。
……小佐間は怒るかな。怒るだろうな。俺が逆の立場だったら怒ってる。

ライヘンバッハの滝壺へ落ちたかの名探偵よろしく、俺も戻って来られたら良かったのに。
現実ってのは斯くも難しいもんだ。
















菱形世論は侵略戦争の終了と同時にアンジニティに到達する。
2020年11月某日――滑落開始。

ENo.260 貴登子 とのやりとり


ENo.1257 アルマ とのやりとり

変化LV を 5 UP！（LV15⇒20、-5CP）
付加LV を 5 UP！（LV6⇒11、-5CP）

ItemNo.37 水芭蕉 から防具『いつもの服』を作製しました！
　⇒ いつもの服／防具：強さ381／［効果1］耐水35 ［効果2］－ ［効果3］－

メルクーリオ(1245) の持つ ItemNo.30 靴 から防具『ふわふわもこもこコート』を作製しました！
あざやん(1275) の持つ ItemNo.32 水芭蕉 から防具『ふわふわもこもこコート』を作製しました！

梢(1011) とカードを交換しました！

ハウル・レゾナンス （イディオータ）


ローエレメンツ を研究しました！（深度0⇒1）
ローエレメンツ を研究しました！（深度1⇒2）
ローエレメンツ を研究しました！（深度2⇒3）

上書き付加 を習得！
ブレイドフォーム を習得！
オーバーウェルム を習得！
超音波 を習得！
ローエレメンツ を習得！

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

末吉(1234) は 靴 を入手！
メルクーリオ(1245) は 靴 を入手！
セロン(1258) は 靴 を入手！
あざやん(1275) は 汚れた玩具 を入手！
末吉(1234) は 闇小晶 を入手！
あざやん(1275) は 闇小晶 を入手！
末吉(1234) は 不思議な布 を入手！
セロン(1258) は 立派な羽 を入手！

ヒノデ区 B-13（道路）に移動！（体調20⇒19）
ヒノデ区 A-13（沼地）に移動！（体調19⇒18）
ヒノデ区 B-13（道路）に移動！（体調18⇒17）
ヒノデ区 A-13（沼地）に移動！（体調17⇒16）
チナミ区 D-2（ベースキャンプ）に戻りました！
体調が全回復しました！

『チナミ区 E-5：チェックポイント《出発地》』へ採集に向かうことにしました！
　　 - セロン(1258) の選択は チナミ区 E-5：チェックポイント《出発地》

MISSION!!
オオキタ区 H-12：チェックポイント《沼沢》 を選択！
　　 - セロン(1258) の選択は オオキタ区 H-12：チェックポイント《沼沢》

［861 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［443 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［500 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［192 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［393 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［295 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［214 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［150 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［72 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［131 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅
［121 / 1000］ ―― 《沼沢》いいものみっけ
［100 / 100］ ―― 《道の駅》新商品入荷
［151 / 400］ ―― 《果物屋》敢闘
［12 / 400］ ―― 《黒い水》影響力奪取
［46 / 400］ ―― 《源泉》鋭い眼光
［3 / 300］ ―― 《渡し舟》蝶のように舞い



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　





　

　

　




　




　



　




　

　

　




　

　

　




　

　

　




　

　

　

チャットが閉じられる――

チェックポイント。

仄かな光に包まれた六角形の柱が立っている。

　

･･･柱から滲み出るように、何かが生み出される。



　




それは言葉を発すると共に襲いかかる！