［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

やたらと早い再会だった。8月にたった1日だけ帰省してきた彼に特段問題は見られなかったはずだ。
大学見学をしてパンフレットを貰って、近況報告をしてお土産を買って帰っていったはずの彼。
詳細は伏せて確認したいことがあると言われてしまえばこちらとしては逢って話すしかない。
数日ぶりに見た彼はとても不可解そうな顔をしていた。



「なんだよ、狐につままれたような顔して」
「いや……」

言葉を濁した、というよりかは言い淀んでいるのか。
10月に入ってようやく少し気温の下がりを見せつつある。湿気はまだあって少し湿気た風が頬を撫でた。
菱形は前回と違い身一つで荷物は持たずにやってきた。よっぽど急いでいたらしい。

「で、なんでまたこっちに来たんだ。大学で確認したいことでも？」
「そういうわけじゃない。ただ、イバラシティに行ったら、」
「行ったら？」
「8月末にこっちに来た記憶が無くなった」
「はあ？　どういうことだ？」
「分からない。だって今は思い出せてるから」

菱形自身もワケが分かっていないようだった。俺にもサッパリ分からない。
記憶が喪失しているのは由々しき事態だ。ただ同時に思い当たる点もある。なにせ異能者の集う島なのだから。

「じゃあそれは十中八九異能が起因だろ。どっかの誰かが外の情報を島内に入れたくなくて
　何らかの手段でお前の頭からすっぽりと情報消したんじゃないか」
「恐ろしい予測立てないでくれよ」
「バーカ、一番筋が通った予測だろ。そう考えるのが一番辻褄が合う」
「そりゃ、そうだけど」
「原因はサッパリ分からんが知られちゃマズいことでもあるのかね」

菱形がはっとした顔になって口ごもった。こういう時は待ってやるものだと長年の付き合いから分かる。
手元のコーヒーを適当に舌に乗せていると意を決したように彼が口を開いた。



「イバラシティ、今、戦争してるんだ」
「？」
「侵略を受けてる。攻めてきてる連中は──アンジニティは、俺達と同じように
　異能によく似た力を持ってて、それで10日前後感覚でハザマで戦うんだ」
「菱形？」
「殺されることはない、影響力で競い合ってるだけ。
　でもハザマからイバラシティに戻ると誰も何も覚えてなくて、街に居る時は何も、」
「おい、菱形！」

思わず声を荒げた。戦争？侵略？ハザマ？何の話だ。彼は今何を話しているのか。
肩を掴んで揺さぶればいつの間にか虚ろになっていた瞳に光が戻った。
キョトン、とした顔は困惑一色に染まっている。

「……先生？　どうかしたのか？」
「どうかしたのかはこっちのセリフだ。お前今自分で何喋ってたか分かるか？」
「え、俺何か喋ってたのか」
「…………」

思っていたよりもだいぶ事態は深刻なように思える。
頭の中で繰り返し確認する。8月に会った彼からは微塵も可笑しな様子はなかった。
いくつか出てきた特徴的なワードを洗い出して一つずつ問いかけた。

「今から聞くワードに率直に答えてほしい。単語の意味を聞いてるんじゃなく、
　最近覚えのあることにだけ対して聞き覚えがあるか知りたい」
「先生？　いきなりどうしたんだ」
「いいから。始めるぞ」
「え、あ、分かった」
「戦争って言葉に聞き覚えは？」
「ない」
「侵略って言葉に聞き覚えは？」
「ない」
「ハザマって言葉に聞き覚えは？」
「ない」
「アンジニティって言葉に聞き覚えは？」
「…………多分、ある。でもどこで聞いたのか分からない」

一つだけ聞いた事のあるそれを端末で検索をかけた。当然のようにヒットしない。
固有名詞であることに間違いはなさそうだが。しかし彼からその言葉を聞いた瞬間俺も妙な既視感に襲われた。
どこかで聞いた事があるような気がする。でもそれがどこなのかは分からない。
まさかこの喪失は菱形だけに起きた事象ではなく消されているのは全員なのか。

「事態は重く受け止めるべき、だな」
「？」
「何でもない、こっちの話だ。現状では解決手段もないし島出たら思い出すんだから
　別に困るような事でもないだろ。さっさと帰れ受験生」
「ええ？　でも……」
「いーからいーから。帰って勉強でもしろ。法律系の大学は門戸が狭いぞ。
　探偵一つで食ってくのはちょっと大変なんだから。司法書士資格はあるに越したことない。
　飯の種ってのは有ればあるほどいいんだ」
「そうか？」

先生が言うならそうかも、と菱形は冷めてマズくなったコーヒーに口を付けた。
適当に話を纏めて帰らせようとしているのは丸わかりだったが菱形も特段言及するようなそぶりは見せなかった。

「で。話変わるけどどうよ最近は。学校楽しいか？」
「楽しいよ」
「そりゃ良かった。気になるあの子はどうなんだ。急接近できた？」
「！！」

コーヒーが器官にでも入ったのか咳き込む。盛大に噎せているのを笑い飛ばしてやった。
8月末日にも聞いた同じやり取りだ。イグアナが元気だとか運動会しただとか肝試ししただとか。
気になる人ができただとか。
彼は微笑をたたえて話していて、ほんの少し楽しげなのが分かった。
それが嬉しい。幼少期の彼を知っているから尚更のことだ。
当たり前のように人として生きるようになれるまで随分かかった。
人生に楽しいもつまらないも無い、と言ってしまうような子供が今は素直に楽しいと口に出せる。
その事実が何ものにも代えがたい。

「お前8月は実家帰らなかったんだな」
「実家と呼んでいいのかはもう分からないけど。帰らなかった。今後帰るつもりもない、かな」
「そのほうが良い。盆にスゲー鬼電来たぞ」
「うわごめん先生」
「いいって。そのまま行方眩ませとけ」

けらけらと笑えばほっとしたように菱形は胸をなでおろした。
彼のご両親が時たま聞いてくる所在について俺ははぐらかし続けている。
名目上は俺が保護者代わりとして引き継いでからは、死に物狂いで追ってくる実家の追撃を逃れて久しい。
一度提案して却下された問いかけも今なら頷いてくれる気がした。

「本当にもう帰らないんだな」
「たぶんもう帰らない、と思う」

父親と母親には、自分の預かり知らぬどこか遠いところで幸せになってほしい。
父親と母親には、自分の関わりのないどこか遠いところで幸せになってほしい。
菱形はぼんやりとそう呟いて満足げにソファに身を沈ませる。

「じゃあ養子縁組の話、蒸し返していいんだな」
「先生が父親になるのか。変な感じだ」
「バカ、お前にパパなんて呼ばれたら鳥肌立つぞ」
「気色悪い。俺も嫌だ」
「言ったなこの野郎！」
「あはは！」



軽口の応酬の果てに、菱形が年相応に笑ってくれた。
相変わらず平和だ。この世界は。戦争なんて起きちゃいない。
そう信じているのに。菱形がどこか遠いところに向かっているような胸騒ぎが消えない。

かつて両親の家から彼を連れ出した時、彼の口走った言葉が今も脳裏にこびりついて離れない。













これからどこにいくんだろう。

俺の家だよ。

おとうさんとおかあさん、おこってた。

知らんぷりしとけ。もう無理にあの家に帰らなくてもいいんだ。

おとうさんとおかあさんがおれの世界の全部だったのに？

そうだよ。

……おとうさんとおかあさんから否定されたら。
　世界の全部から否定されたら。そしたらきっと、おれは。




……アンジニティに行くんだよな。先生。









2020年10月某日――会話中。

特に何もしませんでした。

響鳴LV を 5 UP！（LV25⇒30、-5CP）
付加LV を 5 UP！（LV1⇒6、-5CP）

ItemNo.35 すごい石材 から重鎧『私服』を作製しました！
　⇒ 私服／重鎧：強さ163／［効果1］防御20 ［効果2］－ ［効果3］－


フー(519) とカードを交換しました！

コール：武装トレーラー （クリエイト：ワンダーランド）


石破天驚 を習得！
プレリュード を習得！
浮声切響 を習得！
衣装作製 を習得！

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

末吉(1234) は 何かの歯 を入手！
メルクーリオ(1245) は 靴 を入手！
セロン(1258) は 水芭蕉 を入手！
あざやん(1275) は 水芭蕉 を入手！
あざやん(1275) は 立派な羽 を入手！
あざやん(1275) は 不思議な布 を入手！
末吉(1234) は ぬめぬめ を入手！
末吉(1234) は ぬめぬめ+1 を入手！

ヒノデ区 A-13（沼地）に移動！（体調25⇒24）
ヒノデ区 A-14（沼地）に移動！（体調24⇒23）
ヒノデ区 A-15（沼地）に移動！（体調23⇒22）
ヒノデ区 A-14（沼地）に移動！（体調22⇒21）
ヒノデ区 A-13（沼地）に移動！（体調21⇒20）

［870 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［443 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［500 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［190 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［380 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［296 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［204 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［143 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［61 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［123 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅
［108 / 1000］ ―― 《沼沢》いいものみっけ
［100 / 100］ ―― 《道の駅》新商品入荷
［129 / 400］ ―― 《果物屋》敢闘
［12 / 400］ ―― 《黒い水》影響力奪取
［37 / 400］ ―― 《源泉》鋭い眼光



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　





　




チャット画面に映るふたりの姿。

　





　





　

　

　

　

　

　





　

　

　

　

　

　





　





　





　





清々しい笑顔を見せるふたり。

　

　

　






　








　

　

　

ふたりの愚痴が延々と続き、チャットが閉じられる――