［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

スマートフォンが振動する。
――着信。

風凪。

「おう、どうした」
「……センパイ」
「ん？」
「その、今日」

今日。
少し、何かを考え迷うようなの間。

「今日、パフェ、ごちそうさまでした」
「……律儀だなお前」
「ちゃんとお礼言ってなかったので。
　……それだけです」

それだけ。
聞きたかったことと、言いたかったことを飲み込む間
俺は小さく笑う。

「大したことじゃねーって。
　後輩に奢るのは先輩の義務らしいからな」
「……そうですね。
　じゃあ、気にしないことにします」
「おう」
「……。失礼しますセンパイ」
「ああ」

通話を切る。
息を、一回だけ、長く、長く吐く。
ホーム画面に戻ったスマホを、そのままベッドに放り投げ。

――俺は『病院のベッド』にそのまま横になった。



病院。
時計のない部屋。
真っ白な壁と天井。
天井を仰ぎ見ながら、他人顔の部屋の真ん中で、天井灯の明るさが左目を焼いた。

額の汗をぬぐうように、右目に、右手を翳す。







――安堵が。そして猛烈な虚脱が身体を襲う。
指一本動かせないレベルの精神的疲労に、大きくため息を吐いた。
どうにも……内心を隠すのは得意とは絶対に言わないが、
本調子じゃないやつに余計なことを言わないくらいは出来るみたいではあった。
同時に、相手が何かを言いたいことも、何かを聞きたいことも伝わって来ていたが、
それを言葉にしないことを選んだということも、伝わってきてしまっていた。

センパイ、センパイと別れた後、私が『倒れた』のを知っていますか？
いつの間にか部屋に居たんですが、何か知っていますか？
そういうことを聞きたいのだろうということを分かっていて、
俺からはあえて触れなかった。だから風凪もそれに触れるわけにはいかなかった。
聞いてしまえば、俺に無用な心配や邪推を生むことを知っている、頭のいい女子だから。

俺としては、風凪が無事、生きている――それが分かっただけで十分だった。
それは『前もって聞かされてはいた』けれど、
こうやって実際に声を聞けると途端にそれは実感が湧いてきて。
早鐘を打つような心臓の鼓動がスマホを通じて相手に伝わっていなければいいと思った。


改めてスマホを手に取って時間を見ると、時間は夕方と夜の間だ。
まるで瞬きのように過ぎていった時間にようやく意識を向ける余裕が出来たことを自覚し、
そりゃ疲れるはずだと再びスマホを視界から外す。

風凪が刺され。
その体を俺が異能を使って治してから、八時間余りが経過している。
疲れはしているものの、経過したその八時間で俺がしたことはシンプルだ。

『赤笠組』に電話をして、
その息のかかった病院に運んでもらい、
風凪に治療と検査を受けてもらった。

この選択については、未だに正しかったのか正しくなかったのかは分からない。
気が動転していたことは確実だし、合理的な判断が出来ていたようには思えないが、
それでもすでに選択しおわった決断ではある。
今更どうすることも出来ないし、これからどうするかを考えることしかできない。
救いになるのは、やはり風凪マナカが僅かな疑問を抱くにとどまる違和感しか抱いておらず、
彼女自身が――そうやって生きているということに尽きる。

数時間前に聞かされた――赤笠組の関係者である医師の言葉を反芻する。
治療と検査の結果。
身体に異常なし、刺突傷は修復痕すらなく元に戻っている。
それどころか失ったはずの血量まで元に戻っており、ほぼほぼ健康体といってもいい。
もし、彼女が刃物によって刺突されたことが事実であり、その傷跡を異能によって治療したのであれば、
それをこういう形で治療せしめるのは、医療の限界を超えたまるで魔法のような技術だ、と、
それが『医療行為として正しいものではなかったとしても』ね、と、大層な皮肉までいただいた。

検査が終わると、風凪は組織の人間によって自宅へと送られていった。
どのようにして家人に説明するのかまでは聞かされなかったが、
先ほどの電話でもわかる通り、風凪自身に詳細について説明が必要ない形で、
日常の一コマの許容範囲の中の形に収めることに成功しているらしい。
元よりうちの組はそういう後始末にかけては抜きんでていたので、
俺なんかが考えるシナリオよりも上等な筋書きで以って、
風凪マナカという少女を日常のレールの上にそっと戻してくれたことだろう。
それは大変ありがたかったし、それを可能だと思ったからこそ、協力を懇願したとも言えた。


協力を懇願した理由は、もう一つある。
風凪を刺した人間も、すでに特定を終わっており、
少なくとも二度と彼は風凪マナカの前に姿を現さないらしい。
これもまた、医師に風凪の状態を聞いたときに与えられた情報だ。

情報はそれ以上でも以下でもなかったが、その確信めいた物言いから、
彼が何らかの始末をつけられたということは理解できたし、
始末をつけられた以上やはりあの茫洋とした表情の男は組の関係者だったのだろう。
それが赤笠組の者なのか敵対勢力の者なのかは分からないが、どちらにせよこっち側の人間だったということだ。
自分に、責任がないとは言い切れない。
いやむしろ、責任を感じない方が不自然なほどに、完全に堅気の人間と刺突犯を結び付ける紐は、
どう考えても若宮線引という名前の線だということが一番収まりがいい。
何の目的があったかは分からないが、どう考えても俺に紐づけた方が納得がいく。
改めて。
自分の中に流れる血が。
己の境遇が嫌になる。
同時に、こういう状況に追い込まれて頼る先もまた
赤笠の組織力であるという事実が、泥沼に腰まで漬かり切った自分を嫌でも自覚させる。
一度足を踏み入れれば、足抜けしようが指を落とそうが、生き方にそれがこびりつく。
この家業はそういうものだということが、痛いほどよくわかった。
風凪マナカのような、何も知らない奴を巻き込んでいい世界じゃないことと、
巻き込んでしまったという事実もまた、胸に痛みを残していく。

痛い。
痛み。


天井を、眺める。
右目に翳していた右手を、どける。

闇。

――天井灯の光の存在すら分からない。







俺の右目は、あの瞬間。

耳元で、ハツ、という音を聞いたと同時に。

『風凪マナカに使用した異能』を最後に。

――『完全にその機能を失っていた』。


風凪の治療のついでに、検査してもらったところ。
視神経が最初から右目に視力が備わっていなかったのではないかというほど、
視野に関わる全ての機能が消失していたらしい。
治療でどうにかなる範疇を超えているし、
自分の異能でも頭を開くわけにもいかなかったから、手詰まりだ。

ただ、元より、家業を手伝うことに伴う異能の過使用により、酷使されていた右目だ。
医師からはこのまま異能を使えば遠からずその機能が完全に失われることは今日の午前中に聞いていたし、
だからこそ延命措置として眼帯をして普段の使用を控えていたわけだったから、
こうなることに覚悟はできていた。
まあ流石に、診断と忠告をされたその日の午後に失うとは思っていなかったけれど。
午前中の段階で、赤笠組からは足を洗ったとはいえ、組の気変わりで呼び戻されれば、
今度こそ右目の視力は犠牲になるだろうとも思っていたし、実際なってからもそんなに大きな喪失感はない。

恐らくでも何でもなく、
事柄として直接の原因になったのは、やはり異能の使用だろうと思う。
風凪の治療をしている最中にも、両目の痛みは今までに感じたことのないほどの頭痛を与えてきていたし、
このまま使用を続ければどこかで限界が来ることも分かってはいた。
だからすでに自分の身体は最初の段階から『指線引き』という異能に耐えれる身体じゃなかったのだろう。
間違いなくそれは赤笠組で己の身体を顧みずに異能の過使用を続けてきた酷使によるもので、
それは組のせいというよりは、己のわがままを通そうとした俺自身に原因があるだろう。

覚悟はできていた。
いつかは、起こることだと、思っていたから。

あの瞬間、耳元で俺は、何かが切れる音を確かに聞いた。
それは風凪の右手の指から天に昇る『赤色の線』に触れたその瞬間だ。
自分の右手に視線を落とすが、そんな線は見えないし、今までも見たことがなかった。
だからあれは、恐らく普通の状態では見えてはいけない類の『線』だったし、
ましてやそれに触れるなんてことをしてはいけない『線』だったのだろう。

それを、あろうことか触れて繋げようとしたことで、俺の右目は焼き切れた。
よりにもよって。
そのタイミングで。

そう。
視力が失われることは、構わない。
ただ、それは、あのタイミングでだけは、失われてほしくはなかった。

言い方を変えればギリギリ間に合ったともいえる。
あの『赤い線』を握りこんで繋げた瞬間、風凪が息を吹き返したのはすぐに分かったし、
それが間に合ったことに安堵も、感謝もした。
そして赤笠組に連絡を入れて救助を待つまでの間、
視力を失った俺の右側の視界と、
残った左目で見た風凪の安らかな呼吸を見て。

俺は、こんなもの。

こんな世界を。

こんな損失を。

こちら側のケツ拭きを。

若宮線引の罪の後始末をを。


絶対に風凪マナカにだけは、させないことを決めていた。

こんなもの、他人に背負わせるには、余りにも不細工で。

余りにも、残酷だ。


嘘を吐くことは苦手だ。

だけど、苦手だからといってしなくていいわけじゃない。

真実を話さないことも嘘に含まれるのなら、俺は今日から嘘つきになろうと。

その瞬間、そう思っていた。


風凪マナカは。

俺なんかに関わらなければ。

何の問題もなく、幸せになれる少女なんだから。


幸い、今日の午前中に、俺はばっさりとあいつに男女関係を断られている。
きっとこのまま疎遠になって、自然な形で距離も取れるのだろう。
そのことだけは少しだけ安堵を齎した。
この二年余りで感じたことだが、俺は俺に好意を以って接してくれる相手を、
上手に袖に出来る器用さがない。それだけの覚悟もない。
そしてこの関係のぬるま湯の温かさが戻れば心地よくなってしまうこともわかっていた。

だから。
今日この日を以って『そういうのじゃない』という形を用意してくれた風凪は、
やっぱり俺にはもったいないくらいの『いい後輩』なんだなと、少しだけ感謝した。


「………」

幸い、風凪自身に事件の記憶がないことは聞かされていたし、
さっきの電話であいつが何も知らないこともわかった。
全ては、歪な歯車ではあるが、ギシギシと音を立てて噛み合ったのだろう。
最善の処置とは言い難いが、自分が出来ることはこのくらいだ。

後は。

万が一にでも、あいつが僅かな記憶を辿らないように。
あいつが、俺なんかの薄汚れた人生に触れなくていいように。
罪が形となった、この見えない右目だけは、厳重に封印を掛けておかないとなと。
絶対に外れない眼帯とか、この世にあんのかな。
出来りゃ、クソださくて、格好つけでつけ始めたと思われるような、
そんなやつがあればいいなと思う。学校側にも了承取らねえとな。

俺は、そんなことを思いながら天井を眺めていた。


黒く濁った瞳に映る、俺の右側の視界は、闇に閉ざされている。

風凪マナカが死んだ、あの日の風凪の血の気のない表情を、
最後に、永遠に、そこに映したまま。


「……悪ぃな」

風凪。
出来れば、
上手く、嘘が吐ける相手を見つけて。


幸せになってほしいと願いながら、少しだけ眠った。

特に何もしませんでした。

守護者の姿が消え去った――

　

　

六角形の柱から天に向け、赤色の光柱が立つ。

どうやら次元タクシーで行けるようになったようだ。

すごい木材（400 PS）を購入しました。
すごいお肉（400 PS）を購入しました。

防具LV を 5 UP！（LV47⇒52、-5CP）

ハイネ(416) とカードを交換しました！

FOXコーヒー （モラール）


グラーシーザ を研究しました！（深度0⇒1）
グラーシーザ を研究しました！（深度1⇒2）
グラーシーザ を研究しました！（深度2⇒3）

☆怪力乱神 を習得！
☆グリムリーパー を習得！
☆石破天驚 を習得！
☆二刀流 を習得！
☆プレリュード を習得！
☆リコイルトラップ を習得！
☆重鎧作製 を習得！
☆衣装作製 を習得！
☆付加強化 を習得！
☆初習得ボーナス：各FPが18増加した！

◇通常獲得：各CP･FPが5増加した！

マナカ(507) は 牙 を入手！
マナカ(507) は 鉄板 を入手！
マナカ(507) は 毛 を入手！
線引(506) は 毛 を入手！

特に移動せずその場に留まることにしました。
体調が全回復しました！

『ヒノデ区 M-11：チェックポイント《大通り》』へ採集に向かうことにしました！
　　 - マナカ(507) の選択は ヒノデ区 M-11：チェックポイント《大通り》

MISSION!!
ヒノデ区 E-4：海鳥カフェ を選択！
　　 - マナカ(507) の選択は ヒノデ区 E-4：海鳥カフェ

［860 / 1000］ ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
［431 / 1000］ ―― 《廃ビル》研がれる牙
［492 / 500］ ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
［171 / 500］ ―― 《白い岬》より精確な戦型
［369 / 500］ ―― 《大通り》より堅固な戦型
［274 / 500］ ―― 《商店街》より安定な戦型
［193 / 500］ ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
［134 / 500］ ―― 《古寺》戦型不利の緩和
［47 / 500］ ―― 《堤防》顕著な変化
［116 / 400］ ―― 《駅舎》追尾撃破
［5 / 5］ ―― 《美術館》異能増幅
［1 / 1000］ ―― 《沼沢》いいものみっけ
［24 / 100］ ―― 《道の駅》新商品入荷
［72 / 400］ ―― 《果物屋》敢闘



―― Cross+Roseに映し出される。

　

　

　

　　　ザザッ――

　

　

　

暗い部屋のなか、不気味な仮面が浮かび出る。

　



　





　

女性の声で、何かが語られる。

　

　

　

　

　





　






　

　

　

　

　




　






　





　

　

　

　

　

チャットが閉じられる――

ヒノデ区、海鳥カフェ。

眺めの良い海辺･･･とは、ハザマではあまり言えないが、

お店自体はイバラシティでの様子とあまり変わらないように見える。

　

･････ある点を除いて。

　






　

一切の鳴き声をあげず、カフェの周囲を飛んでいる。

その目は既にこちらを捉えており、巨体が静かに近づいてくる･･･