
「ちょっと疑問に思ったんだけど……」
日常の他愛のない会話の中、
兎乃が言う。
「ん?
といっても、我が話したのは今日見た夢の内容であって、
疑問に出されても答えれるかどうか分からんぞ。
所詮……夢は夢。
こうして覚えて話せるだけでも難しい上、
事実かどうかも分からん事だ。
それに、
不整合もまた夢の在り方だろう。
非現実的な夢など腐るほどあるのだしな。」
そんな兎乃に対し、
コーヒーを飲み……
思いっきり渋い顔をして、
砂糖とミルクを入れ、
満足そうに飲む映美莉。
「それはそうかもしれないけど……」
そんな様子に、
兎乃はそれでも何か気になる事があるのか、
言い淀みながらじっと映美莉を見つめる。
その戸惑いながらも、
真っすぐで、
どこか真剣さを感じる視線に、
ちょっと頬を赤く染めて軽く顔を背けながら……
「……とはいえ……だ。
夢にはしてはリアルだったし、
語ってはいない部分だが、
夢の中で見た我についての思考や過去について、
多少であれば見えた部分もある。
推察込みで、
それが正しいかどうかわからないという前提でよければ答えよう。
夢を何故見たのか、
どうして見る事になったのかについては……
どちらも我ではあるからな。
そういうこともあるだろうとしかいえないが。」
何かに耐えかねるように映美莉は言う。
基本的に女の子の懇願に弱いというか、
甘いのだ。
それも親しい相手からとなると猶更だろう。
それでもちょっと意地を張ってしまう辺りは……
映美莉のプライド……といった所だろうか?
「それならよかった。
じゃあ遠慮なく聞くけど……
その、向こうの映美莉はどうしてそんな事になったと思うの?」
それは純然たる興味だ。
アンジニティを知っているからこそのものでもあるかもしれない。
そう。
気づいているのだろう。
夢の中の映美莉がアンジニティの映美莉である事に。
故に気になるのだ。
目の前の映美莉がどうして、
そういう道筋を通る事になってしまったのか。
ここの映美莉と向こうの映美莉。
何が間違ってしまったのかが。
そして、
それに対して映美莉は目を閉じ少し考えるような仕草をした後、
「――簡単にいってしまえば……
怠惰なのだろうな。」
帰って来た答えはシンプルなものだった。
「怠惰……?」
といっても、シンプル過ぎて伝わるかといえば難しい。
兎乃はどういう事なのだろうかと首を傾げながら次をうながす。
流石にそれだけではわからないという視線を向けながら。
「ああ、怠惰、だな。
正直な話、興味はないのだろう。
外にあるものの全てに。
無論、
我である以上女は好きなのは変わらないだろうが、
城……というか己の陣地に引きこもっているのは、
そこまでたどり着く相手、挑む相手でもない限り、
心動かされないという一種の選別だろう。
我なら、まぁ、
夜見回りしたり、
いろんな女の子に心揺らされる訳だが、
そういった好奇心、行動力というものが致命的に枯渇している。
これを怠惰といわずしてなんといえるのか。
少なくとも我には他の言葉でいいかえるのは難しいな。」
怠惰。
なるほど、
そういわれてみれば怠惰だろう。
活動的な映美莉と大きく違う点は確かにそこだ。
大好きな女性に対しても興味というものが薄い。
相対すれば確かに興味があるのは理解できるが、
内に籠って待ち構えるというのは映美莉らしくない行動だ。
少なくとも、兎乃からすれば、だが。
「確かに、
そういわれれば納得出来るけど……」
だが、
それ故に気になってしまう。
その致命的な食い違い。
それはどこから来ているのかが。
きっかけは些細な事なのか、
それとも些細と片付けれないほどに大きなものなのかまでは分からないが。
「とすればだ。
気になるのは当然。
うん。
分かっているとも。
大丈夫だ。
……気になるのは、
どうしてそこまでの違いが現れてしまったのか。
違うかな?」
食い入るように映美莉を見つめる兎乃の視線に気づいたのか、
両目を開けて瞳を見つめ返し、
当たっているだろう?
と言わんばかりに少し首を傾げる映美莉。
「ええ。
もちろんよ。」
それに対し、
頷きながら正直な気持ちを伝えると、
映美莉は満足そうに頷き――
「ならば……
少しばかり長い話をしようか。
多くの部分は推論であるがゆえに、
実際とは異なる部分が多くあるだろうが……
ま、その辺りは勘弁してくれ。
恐らく、
生まれやそれに付随する人間関係は大差ないだろう。
決定的に違うとすれば、
きっとあちらの我は置いて行かれたのだ。」
置いていかれた。
映美莉の過去の話をよく知らない兎乃からすれば、
それは違和感のある言葉だったかもしれない。
「置いていかれた……?」
どういう事だろうと首を傾げるくらいには。
「単純に、両親、兄弟、
それから執事やメイド……
そういった周囲の人間が様々な理由で離れていって、
恐らく一人取り残された我こそが彼女なのだろう。
我よりも未来の我。
一人取り残されてそれでもずっとそこから離れられず、
老いず姿も変わらぬものに対し、
人は恐怖したのだろう。
現代によみがえった吸血鬼だとな。
そういった人間は恐怖する。
それは最初は小さい恐怖ではあるが、
恐れは伝染し膨れ上がっていく。
そして、
人は恐怖を排除しようとする以上、
向こうの我を排除しようとするのは自明の理だ。
それ故に我を襲撃し、
そして返り討ちにあった。
なんだかんだいって力は本物だからな。
人を殺す事を容赦しないのであれば、
その力は絶大といってもいい。
もっとも我が同じことが出来るかはわからんが、
少なくとも向こうの我にとってはな容易い事だったはずだ。
そして、
それが生み出すのは人間不信と絶望。
そして、
次から次へと人々を殺した悪鬼を倒そうと否定され、
心は摩耗していく。
摩耗した心を癒すために眷族を増やし、
自分の世界へとどんどん閉じこもってゆく。
否定され、
閉じこもり、打ち捨てられ……
そのうち、その閉ざされた世界と共に、
あるべき場所へと至った。
それが、夢の中の我だろう。
怠惰であるのも当然だ。
向こうの我の世界はそれで完成してしまっている。
変化を必要としていないのだからな。
それでも……
たどり着いたもの、挑むものを取り込もうとするのは、
心の空白が永遠に埋められないからだ。
空虚なる女王。
怠惰なる女王。
勝てる者がいるとすれば……
それは、向こうの我に興味がないものだろう。
そして興味がないゆえに辿り着くことも、
そこで戦う事も恐らくはあるまい。
向こうの我が死を求めない限りは。
故に永遠に続く怠惰、
そこに居続けるだけの存在だな。
死を求める可能性がないのかといわれると、
まずないだろうな。
なんだかんだで我は生き汚いというか、
生きる執着だけはある。
自死だけはあるまいよ。
そして死を他者に委ねることも。
ま、もし外界に興味をもつとしたら……
認めた上で打ち勝てる存在が引きずり出すくらいか?
我にはできんな。
在り方が違い過ぎる。」
そういって残ったコーヒー、
今や甘いカフェオレとなったそれを飲み干す映美莉。
その話を聞いて兎乃は……
「なんだか、
夢の中の映美莉は寂しい人なんだね。」
などと感想を述べる。
その感想に対し映美莉は、
「寂しい、か。
確かに寂しいかもしれないな。
だからこそ、
我とつながったのかもしれない。
もしもの自分。
満たされた自分をみてみたかったのかもしれない。
色々あるが我は向こうの我と違って満たされているからな。
とはいえ……
色々お気に召さなかったようだが。
お気に召さなかったようだが。」
それなりに満たされたようだが、
向こうの映美莉にとって、
こちらの映美莉は弱すぎるし、
未だ絆も満たすものも足りなさすぎる。
期待はしていても完成していないものを見て、
お気に召すまでにいたるかといわれれば否である。
分かってはいる。
分かってはいるが、
ちょっとむっとしてしまうのも致し方ない事であろう。
「あはは、
残念だったねといえばいいのか、
それとも、
まだまだこれからだよっていえばいいのか、
迷っちゃう。
でも、そっか。
向こうの映美莉はそういう映美莉なのか。
それが分かっただけでも収穫だし、
それに……」
「それに?」
それに、なんだろうかと、映美莉は小首をかしげる。
「今は寂しいかもしれないけど、
向こうの映美莉にも救いがあるといいね。
なんて。」
そんな兎乃の言葉に映美莉は思わず吹き出す。
「はっはっは。
確かにな。
救いがあればいいと思うよ。
ま、いつかあるんじゃないかな。
諦め……
というか終わらない限りは。
どんな形であれ、救いがあるならそれはその人にとって幸いだ。
さて。
せっかくだ。
もう少し話をしよう。
夢の話はやめて今度は楽しい話でも?」
なんてウィンクした所で、
兎乃は席を立ち――
「うん。
それもいいけど、
ちょっと用事があるからそれはまた今度。
面白い話ありがとうね。映美莉。
どんな楽しい話用意してくれてるか楽しみにしてるから。」
そう笑って、
ごめんねとばかりにウィンクして立ち去ろうとする。
その姿に向かって映美莉は、
「それは残念だ。
なら色々面白い話をストックしておくとしよう。
いくら話しても話足りないくらいにね。
それじゃ、また。
気を付けて。」
ひらりと手を振り、
その背を見送る。
ちょっとした寂しさを感じるが、
まぁ、よくある事である。
「それにしても……」
映美莉は空になったコーヒーカップを眺めて一つ溜息を吐き、
思考をめぐらす。
こうして兎乃に夢の話をして、
兎乃の疑問から夢に関する様々な事を想像も交えて考察した。
そこに間違いはあまりないはずではあるのだが、
別の疑問が思い浮かぶ。
確かに、夢でみた向こうの映美莉は、
間違いなく別の可能性の映美莉自身なのには間違いない。
だが、
果たしてそれならばこちらの映美莉自身はどうなのだろうか。
ここが自分が生きる現実なのには間違いがない。
けれど、本当はこちらの自分はただの夢ではないかという不安。
なぜだか分からないが、
その不安はどんどん大きくなっていく。
まるで、
この世界が不安定であるかの如く。
そんなはずはない。
ここは現実で、確かに自分はここにいると映美莉は思うが、
どうしても、この世界が不安定で、
現実にしては希薄なものがあるという感じを拭い去る事が出来ない。
「――やれやれ、
いつからこんなにこの世界は……
いや、よそう。
言葉に乗せると現実になってしまうかもしれない。
これは我の気の迷い、
こういう時は体を動かすに限る、か。」
映美莉はそう呟き、
首をふって勘定をすませ、
店を出ると大きく伸びをして大きく跳躍し、
屋根の上から街を眺め、
屋根の上を歩いていく。
あまりよろしくない行為ではあるが、
手馴れているというか、
何時も良く歩いている道である。
そうして街を巡りながら、
自分に出来る事であれば解決する。
いつもの見回り。
いつもは夜にする事をちょっと早めに始めるだけ。
そうしていつもの日常を始める事で……
心の平静を取り戻す。
不安なんてどこかにいったかのように晴れやかに、
今日もまた一日平和に過ぎてゆく。
何も知らぬまま。
 |
えみりん 「思ったより余裕があってかけたぞ」 |
 |
えみりん 「ネタも時間もあるというのはよいな!実によい!」 |
 |
えみりん 「いつもこうだといいんだがなぁ。中々そうもいかない。」 |
 |
えみりん 「次のネタどうするかっていうのが決まってるだけで心の余裕が」 |
 |
えみりん 「そして、やはり10日でもきついあたり衰えを感じるな」 |
 |
えみりん 「うーむ」 |
 |
えみりん 「前くらいにかけるようになりたいな。中々難しいだろうが。」 |

[842 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[382 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[420 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[127 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[233 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[43 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[27 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
 |
白南海 「・・・・・おや、どうしました?まだ恐怖心が拭えねぇんすか?」 |
 |
エディアン 「・・・何を澄ました顔で。窓に勧誘したの、貴方ですよね。」 |
 |
白南海 「・・・・・・・・・」 |
落ち着きなくウロウロと歩き回っている白南海。
 |
白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!! 俺これ嫌っすよぉぉ!!最初は世界を救うカッケー役割とか思ってたっすけどッ!!」 |
 |
エディアン 「わかわかわかわか・・・・・何を今更なっさけない。 そんなにワカが恋しいんです?そんなに頼もしいんです?」 |
 |
白南海 「・・・・・・・・・」 |
ゆらりと顔を上げ、微笑を浮かべる。
 |
白南海 「それはもう!若はとんでもねぇ器の持ち主でねぇッ!!」 |
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エディアン 「突然元気になった・・・・・」 |
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白南海 「俺が頼んだラーメンに若は、若のチャーシューメンのチャーシューを1枚分けてくれたんすよッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・。・・・・他には?」 |
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白南海 「俺が501円のを1000円で買おうとしたとき、そっと1円足してくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・あとは?」 |
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白南海 「俺が車道側歩いてたら、そっと車道側と代わってくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
 |
エディアン 「・・・うーん。他の、あります?」 |
 |
白南海 「俺がアイスをシングルかダブルかで悩ん――」 |
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エディアン 「――あー、もういいです。いいでーす。」 |
 |
白南海 「・・・お分かりいただけましたか?若の素晴らしさ。」 |
 |
エディアン 「えぇぇーとってもーーー。」 |
 |
白南海 「いやー若の話をすると気分が良くなりますァ!」 |
 |
白南海 「・・・・・・・・・」 |
 |
白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!!!!!!」 |
 |
エディアン 「・・・あーうるさい。帰りますよ?帰りますからねー。」 |
チャットが閉じられる――