◆ハザマ時間:11時間目
荒れた街中、本来なら小ぎれいであろうはずのよそのブティックのショーウィンドウから中を眺めるフロレンシアが一人。その目には、マネキンに着せられた様々なお洋服たちが映っていた。
しかし、そのどの洋服も
今のフロレンシアにはサイズが大きく、とても着こなせるものではなかった。けれど、意を決したようにブティックの扉を開き中に入る。誰も出迎えてくれる店員も軽快なBGMもないが、服だけはきちんとあるようだった。
そんな彼女を、後ろからついてきてた執事3人は首をかしげながら眺めていた。
「どうしてブティックに?」
「子供服でも見に来たんじゃない?」
「でもここ大人用しかない」
「おそらく"ないものねだり"というヤツかと!」
「女性の考えることはよくわかりません」
彼らは皆バッハシュタイン家の執事であると同時に、悪魔に類するモノである。決して家主に忠誠を誓っているわけでもなく、かといって逆らうわけでもない。絶対的な力の差という鎖でつながれただけの存在であるからして、フロレンシアに聞こえるような声量で堂々と悪態や、今のような会話をする。
Aは『怠惰』を
Bは『嫉妬』を
Cは『暴食』をそれぞれ司る悪魔。
司っているモノがモノ故、コメントもそれぞれだ。あからさまに興味がなさそうなCと、面倒くさいという態度を隠さないA。この場に置いて、一番フロレンシアにグサグサと刺さる言葉を投げつけてくるのは人の好さそうな笑顔を浮かべるBだろう。Bの言う通り今の彼女はそう。まさに
ないものねだりをしているのだ。
『私も大きくなりたい』
『おんなじくらいの背丈になりたい』
『こんな子供の姿は嫌』
最近その願望ばかりがぐるぐるぐるぐる思考を支配する。恋は盲目というかなんというか、いやはや恋する乙女という生き物は厄介なものである。ワールドスワップ……世界の天秤よりも意中の相手のことや近づくことばかりに傾いてしまっているようだ。
―シャッ
―――ガサゴソ……
商品を隅から隅まで、上から下まで吟味する。しかしどれもこれも今のフロレンシアには着こなせるものはなかった。頭ではわかっていたのに、心では期待している……体が子供なら、心も引っ張られているのか。今の自分は、まるで大人のお姉さんに憧れる小さな女の子だ。しかも理想図が元々の自分の姿とくれば歯がゆいことこの上ないだろう。
「うう………どれもこれも大きいのだわ……」
まさに文字通り、がっくりと項垂れる。本来の自分なら華麗に着こなせたはずの服、しかし今の自分には過ぎた存在……言うなればそう、ブラジャーをつける必要のないぺちゃぱいが見栄を張って大きいサイズのを手にしているかのような虚無感。
かわいそうに思ったのか、はたまたただ単に飽きたのか…おそらく後者だろう、Aがフロレンシアに『無駄なことしてないで帰りますよ』と容赦のない言葉を投げかける。
「む、無駄って何よ!無駄じゃないもの!かっかわいい服、探しに、来ただけだし…!」
「今の服もじゅーぶんかわいーですよ」
「棒読みじゃないの!」
こんな奴ら連れてきたのが間違いだった!と言わんばかりに店から執事ズを追い出すフロレンシア。文句を言いながらも、彼女に付き合うのに飽きたのか『外で待ってます』と素直に出て行った。店内にはフロレンシアが一人ぽつんと佇む形になり、途端に少し、怖くなる。思い返せばここはハザマ、お化け屋敷とは言わないけど廃退したブティックの中……思えばめっちゃ怖いかもしれない。
ぶんぶんと頭を横に振り、怖くない怖くないと自分に言い聞かせる。遊園地のお化け屋敷で恥をかいたのにこんなところでまで醜態をさらしてなるものかと鼓舞する。
「うう~……大丈夫大丈夫、ナレハテとの戦いだってなんとかなってるのだから、何か出てきてもきっと大丈夫なのだわ」
何かあれば外に待機してるであろう執事ズを呼びつければいいだけの話。何も問題はない。そう、
何も問題はないのだ!(※怖いので無駄に声を大きくしています)
「でも、やっぱり子供用の服になるとフリルが沢山で、ピンクが多いわね……この店は大人用って感じだから子供用の服は少ないみたいだし…」
いくつか手に取った、自分でも着れそうな服はどれもこれもちょっとゴスロリっぽい印象。嫌いではないけれど、冬馬はこれを好んでくれるだろうか?季節的に『暑そう』とか言われそうだ……確かにこんなフリフリごてごてした服を着ながら歩き回ったり戦うの、ちょっときついかもしれない。
「はあ……もっと大きくなれたらなあ……」
ウロウロと店内を徘徊する。そんなに広くないから、大体は見て回ってしまった。
気になる服を何度も何度も手に取って見て、体に当ててみてはため息をついて元に戻す作業の繰り返し。ひび割れて曇っている鏡と睨めっこしても子供の姿は変わらない。ますますため息が深くなる。
「……?」
今、気のせいだろうか。ひび割れた鏡に誰か………
恋は盲目というけれど、それはきっと本当だろう。
だってすぐ傍まで歩み寄ってきていたアンジニティに気づかないなんて。
目が覚めたら、目の前には追い出したはずの執事A。どうしてだか、めちゃくちゃ呆れたような目で私を見下ろしていた。
そう、見下ろしていたのだ。上から。私は倒れていたみたいで、気づけば埃っぽい床の上にあおむけだ。
しかしなぜだろう、体が締め付けられるみたいに痛い。謎の人物に襲われた気はするのだけど一体何をされたのか………。ふと、上体を起こして立てかけてあった鏡が目に映る。
―――――驚いた。
「お嬢様、坊ちゃんの言う通りスライムみたいですよ」
次回に続く……!

[842 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[382 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[420 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[127 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[233 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[43 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[27 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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白南海 「・・・・・おや、どうしました?まだ恐怖心が拭えねぇんすか?」 |
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エディアン 「・・・何を澄ました顔で。窓に勧誘したの、貴方ですよね。」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
落ち着きなくウロウロと歩き回っている白南海。
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!! 俺これ嫌っすよぉぉ!!最初は世界を救うカッケー役割とか思ってたっすけどッ!!」 |
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エディアン 「わかわかわかわか・・・・・何を今更なっさけない。 そんなにワカが恋しいんです?そんなに頼もしいんです?」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
ゆらりと顔を上げ、微笑を浮かべる。
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白南海 「それはもう!若はとんでもねぇ器の持ち主でねぇッ!!」 |
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エディアン 「突然元気になった・・・・・」 |
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白南海 「俺が頼んだラーメンに若は、若のチャーシューメンのチャーシューを1枚分けてくれたんすよッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・。・・・・他には?」 |
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白南海 「俺が501円のを1000円で買おうとしたとき、そっと1円足してくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・あとは?」 |
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白南海 「俺が車道側歩いてたら、そっと車道側と代わってくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・うーん。他の、あります?」 |
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白南海 「俺がアイスをシングルかダブルかで悩ん――」 |
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エディアン 「――あー、もういいです。いいでーす。」 |
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白南海 「・・・お分かりいただけましたか?若の素晴らしさ。」 |
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エディアン 「えぇぇーとってもーーー。」 |
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白南海 「いやー若の話をすると気分が良くなりますァ!」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!!!!!!」 |
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エディアン 「・・・あーうるさい。帰りますよ?帰りますからねー。」 |
チャットが閉じられる――