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「……では、さようなら」 |
通信は、この言葉と共に途絶えた。
「……ええ、さようなら。シェリルさん……」
誰にも届くことのない言葉が零れ落ちる。
全身を駆け巡るように脱力感が襲ってくるような感覚がする。
しかし、機体の状態を確認してもおかしなところは何もない。
……当然だ。私の身体は人間のものではなく、機械なのだから。
そう、私は機械。それも、大勢の人間を殺した……殺戮機械だ。
今こうやって動いているのは奇跡に近い、いつ再び暴走するかもわからない。
そんな危険なものだと知ってもなお、彼女は何とかして『阿万音 詩杏』を助けようとしただろう。
彼女にとって、大事な妹であるのだから。失ってしまった妹と同じくらい、大切なものなのだから。
……だから、これでよかったのだ。
『阿万音 詩杏』なんて少女はどこにもいない。ここにあるのは、その記憶を持っただけの冷たいアンドロイド。
"そういうこと"にしておいたほうが、お互いに大きな未練を持たないでいられるのだから。
『……まるで必死に自分に言い聞かせてるみたい』
……そんな風に言う声が聞こえたような気がした。
内心ではその通りなのだろうと思いながらも、その声が聞こえないフリをする。
そうして、こちらに届いた次の通信に耳を傾けた。
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「……正味、説明しようにも難しい事柄であります故なぁ」 |
薊様からの通信。行動を共にしていたスーズ様との関係を訪ね、その返事。
「説明しようにも難しい事柄」との言葉から、過去に何かあったのだろうと推測する。
しかし、件の彼女自身──スーズ様には、そのような様子は見られなかった。
……『阿万音 詩杏』のように、過去の記憶を喪失していたのだろうか。
彼女が立ち止まってしまう直前には、随分と記憶の混濁が進んでいた。
イバラシティでの私が、本来の私ではとまで言うほどに。
侵略戦争が始まる以前の記憶がなければ、イバラシティでの記憶が真なるものだと認識するのも無理はないのかもしれない。
自らの存在の依り辺となるものが、その他には一切何も無いのだから。
……立ち止まってしまった彼女が心配ではないと言えば、それは嘘になる。
しかし、私も歩みを止めるわけにはいかない。
たとえ帰るべき場所が私を拒み、何も残っていないとしても……私が私である以上、あの場所が私の在るべき場所なのだから。
目的地に向かって歩みを進めていく。そうしていると、また新しい通信が届いた。
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「さてさて、空元気だと思う?当ててごらん!」 |
明るく元気な声がこちらにも響いた。
彼女はどちらの陣営なのか『阿万音 詩杏』とも関わりが深い以上は探らなくてはならない。
しかし、そんな考えも……次に発せられた言葉ひとつで、簡単に乱れてしまう。
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「"お姉ちゃん"が何も言わずいなくなっちゃうのは悲しいし──」 |
「お姉……ちゃん……」
自分でも気が付くことなく漏れ出るように、その言葉を口にしていた。
今ほど『阿万音 詩杏』の浅はかさを恨めしく思うことは、きっとこの先にもない。
そう呼ばれるだけで、私の機械の心臓はバクバクと脈動し、機体が熱を持ち始めるような気がしてくる。
妹達と過ごしたかけがえのないメモリーが、私自身がそれを破壊するメモリーが鮮明に蘇ってくる。
……こんなにも苦しく辛い思いをするのなら、殺戮機械のまま物言わぬ鉄の塊になっていたほうがよかったと思ってしまう。
だが、それ以上に──
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「もういない妹ではない。わたくし個人の感情に、あなたを巻き込むわけにはいかない」
「そう、分かってはいるはずなのに──」 |
そうだ、もういない妹ではない。そう、わかっているはずなのに──
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「──つい、重ねてしまうのですよ」 |
どこか、懐かしさと共に嬉しさのような感情を抱いてしまっている、自分がいる。
「────」
こんな思いをするのなら……
心のなかでもう一度呟き、まるで逃げ出すように私は歩む速度を早めた。

[822 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[375 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[396 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[117 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[185 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
アンドリュウ
紫の瞳、金髪ドレッドヘア。
体格の良い気さくなお兄さん。
料理好き、エプロン姿が何か似合っている。
ロジエッタ
水色の瞳、菫色の長髪。
大人しそうな小さな女の子。
黒いドレスを身につけ、男の子の人形を大事そうに抱えている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
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アンドリュウ 「ヘーイ!皆さんオゲンキですかー!!」 |
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ロジエッタ 「チャット・・・・・できた。・・・ん、あれ・・・?」 |
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エディアン 「あらあら賑やかですねぇ!!」 |
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白南海 「・・・ンだこりゃ。既に退室してぇんだが、おい。」 |
チャット画面に映る、4人の姿。
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ロジエッタ 「ぁ・・・ぅ・・・・・初めまして。」 |
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アンドリュウ 「はーじめまして!!アンドウリュウいいまーすっ!!」 |
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エディアン 「はーじめまして!エディアンカーグいいまーすっ!!」 |
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白南海 「ロストのおふたりですか。いきなり何用です?」 |
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アンドリュウ 「用・・・用・・・・・そうですねー・・・」 |
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アンドリュウ 「・・・特にないでーす!!」 |
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ロジエッタ 「私も別に・・・・・ ・・・ ・・・暇だったから。」 |
少しの間、無音となる。
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エディアン 「えぇえぇ!暇ですよねー!!いいんですよーそれでー。」 |
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ロジエッタ 「・・・・・なんか、いい匂いする。」 |
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エディアン 「ん・・・?そういえばほんのりと甘い香りがしますねぇ。」 |
くんくんと匂いを嗅ぐふたり。
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アンドリュウ 「それはわたくしでございますなぁ! さっきまで少しCookingしていたのです!」 |
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エディアン 「・・・!!もしかして甘いものですかーっ!!?」 |
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アンドリュウ 「Yes!ほおぼねとろけるスイーツ!!」 |
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ロジエッタ 「貴方が・・・?美味しく作れるのかしら。」 |
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アンドリュウ 「自信はございまーす!お店、出したいくらいですよー?」 |
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ロジエッタ 「プロじゃないのね・・・素人の作るものなんて自己満足レベルでしょう?」 |
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アンドリュウ 「ムムム・・・・・厳しいおじょーさん。」 |
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アンドリュウ 「でしたら勝負でーすっ!! わたくしのスイーツ、食べ残せるものなら食べ残してごらんなさーい!」 |
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エディアン 「・・・・・!!」 |
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エディアン 「た、確かに疑わしい!素人ですものね!!!! それは私も審査しますよぉー!!・・・審査しないとですよッ!!」 |
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アンドリュウ 「かかってこいでーす! ・・・ともあれ材料集まんないとでーすねー!!」 |
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ロジエッタ 「大した自信ですね。私の舌を満足させるのは難しいですわよ。 何せ私の家で出されるデザートといえば――」 |
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エディアン 「皆さん急務ですよこれは!急務ですッ!! ハザマはスイーツ提供がやたらと期待できちゃいますねぇ!!」 |
3人の様子を遠目に眺める白南海。
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白南海 「まぁ甘いもんの話ばっか、飽きないっすねぇ。 ・・・そもそも毎時強制のわりに、案内することなんてそんな無ぇっつぅ・・・な。」 |
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白南海 「・・・・・物騒な情報はノーセンキューですがね。ほんと。」 |
チャットが閉じられる――