
どことも知れぬ空間…。
形もなければ音もなく、あるいは時間すら存在しない。
ダンタリオン。
そう呼ばれる悪魔達の、思考が集う場。
《邪気、てめえッ!何でアイツらの元を離れた!!》
《えー、良いじゃん別に。ボクらのお膳立ては済んだしさぁ、後は自分達でやれるっしょ?》
《そういう問題じゃねぇよ、アイツらにはまだ使い道が
》
《
あのさぁ、暴虐。ここで建前なんて通じないよー?》
《あらあら…、あの子達に情が移りましたのね。
あなた、呼び名を
人情にでも変えた方がよろしくてよ?》
《アハハハっ、はぐれ悪魔人情派じゃん!》
《うるせぇよ!》
《
うるさいのは貴方ですよ、暴虐さん。》
その場に、新たな思考が割り込む。
《私たちの目的はアンジニティを勝利に導きイバラシティを手に入れること…。
その為に必要なら使う、不要なら捨てる。それだけです。
彼らの役割は済みました、別れた方が合理的でしょう?
そんな事も分からないんですかぁ?》
《………。》
《私達の戦力は既に整ったので、これ以上付き合う必要はないでしょう。
未開の地を開拓し、アンジニティの民衆が進むべき導線を確保する。
それは個人で身軽なればこそ可能な事で
》
《
おい、新入り。》
《…はぁ、何ですか説明を遮って。
あなたが理解してないようだからこうして説明して差し上げてると言うのに…。》
《アンジニティを勝利に導くやら、イバラシティを手にいれるやらってのは
てめぇが望んでるだけの願望だ。押し付けんじゃねぇよ。》
《…ぇ?》
《…まぁ、そこまで興味はありませんわね?》
《ボクは楽しければ何でも良いかなー。》
《
調子のんなよ、小娘。》
《………。》
《ま、良い。俺は俺で暴れされてもらうだけだ。それじゃあ出るぞ。》
《何言ってんの、暴虐。もうとっくに出てったけどー?》
《あ?…アァ!?
誰がっ!?》
《…あの子ですわよ。》
《マジかよ…。》
「ここが…、ハザマ……。」
一人の少女が、ハザマの空を見上げていた。
ワンピースを着た小柄な少女。顔色は悪く、目は虚ろ。
手には大きな本を抱えており、その本にはこう書かれている。
ダンタリオン、と。
虚無のダンタリオン
老若男女様々な姿を持つ悪魔。
ワンピースを着た虚ろな目をした少女、触手状の尾を生やせる。本は常に両手で抱えている。
「淀んだ空気…。
不格好な街並み、歪な人混み、狂った常識、曖昧な生死…。
不自然な世界…、まるで私達を見ているみたい…ね。」
少女は歩き出した。
そこはアンジニティのベースキャンプ、侵略者達の一時の安息所。
身体を休める者、取引にいそしむ者、練習と称して暴れる者。
それらの大半は異形の者、異様な光景が眼前に広がる。
「ここには、あるの…?
それとも、イバラシティになら、あるの…?
戦いの中…。勝利した先…。平穏な未来…。
それは私を満たしてくれるの…?」
歩き続ける、行き先も分からず指針もない。
迷路に迷い込んだかの如く、彼女はさ迷い歩く。
例えその迷路に出口が存在しなくとも、立ち止まることはない。
「…わからない、しらない、なにもない…。
どこ?どこに…どこにあるの…?ねぇ、どこに……。」
歩き続ける
《彼女は…何を言ってるんですか…?》
《…さぁな、アイツの考えてることなんて俺らにはわかんねぇよ。》
《分からない?お互いの思考は筒抜けでしょう?》
《じゃあてめぇには分かんのか、アレの事が。》
《それは……。》
《アイツは別モンだ、考えが読めねぇ…。
あるいは心が無いのかもしれない…、だから俺達はこう呼んでる。》
《
『虚無』 ってな。》
《虚無の、ダンタリオン…。》

[787 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[347 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[301 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[75 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
ザザッ――
画面の情報が揺らぎ消えたかと思うと突然チャットが開かれ、
時計台の前にいるドライバーさんが映し出された。
ドライバーさん
次元タクシーの運転手。
イメージされる「タクシー運転手」を合わせて整えたような容姿。初老くらいに見える。
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ドライバーさん 「・・・こんにちは皆さん。ハザマでの暮らしは充実していますか?」 |
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ドライバーさん 「私も今回の試合には大変愉しませていただいております。 こうして様子を見に来るくらいに・・・ですね。ありがとうございます。」 |
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ドライバーさん 「さて、皆さんに今後についてお伝えすることがございまして。 あとで驚かれてもと思い、参りました。」 |
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ドライバーさん 「まず、影響力の低い方々に向けて。 影響力が低い状態が続きますと、皆さんの形状に徐々に変化が現れます。」 |
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ドライバーさん 「ナレハテ――最初に皆さんが戦った相手ですね。 多くは最終的にはあのように、または別の形に変化する者もいるでしょう。」 |
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ドライバーさん 「そして試合に関しまして。 ある条件を満たすことで、決闘を避ける手段が一斉に失われます。避けている皆さんは、ご注意を。」 |
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ドライバーさん 「手短に、用件だけで申し訳ありませんが。皆さんに幸あらんことを――」 |
チャットが閉じられる――