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今田 「こんなもんかなっと。」 |
―4日目―
デスクライトの光の際につづり終えた日記を〆終える。
家の縁側の向こう、月光を照らす夜桜が薄く輝いて綺麗に見えた。
今日これまでの『記憶』を綴り終えた余韻には、丁度いい日だろう。
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今日日までにも、新しいお客さんが訪れてきた。
『友人』がいたその時。
訪れてきたなんというか…一言で言うと熱い炎の様な人物だった。
なんだったら容姿から存在感のタッチまでも『1980年の男』と言える。
ポロリと言っていたがどうやら…彼もヒーローらしい。
『友人』とは知り合いだった様だが…メイド銭湯?で何やってたんだろうか?
其れだけあって誠実な、見た目でわかっていたけど熱血漢だ。
どうやらヒーロー活動でいろいろあって、新しい技能を求めてたらしい。
中々悩んでいるようだ、今回紹介した本が彼の役に立ってくれれば良いけれど。
柔道では確かに立ち向かう困難において限界はある。
なので彼にお勧めした『少林寺拳法』、なにかしら活路になるのを祈ろう。
そしてレスキューを学ぼうという意志は如何にもヒーローらしさがある。
どうか、彼の望む道が彼の存在の如く炎の光で照らし続けると願う。
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また別の日、……まだ少々寒さの残る日だったろうか。
店の中で装飾製本を続けてた時、小さな女の子が店前で立ってた。
物静かな感じで白くて長い髪の、背の低い女子高生さん。
まだ寒かったろうけれど、誰かを待っている様だった。
ので暫く様子を見ていたところ、待ち合わせていた誰かが来た。
同じく白くで、然し待ってた子よりも背の高く、
気の強く目つきの凛とした、輝く金色の瞳が印象的な少女だった。
こんなところにまでうちの店へ寄ってくれたのは意外ながら、
多数の本をお買い上げ頂いたのは有り難い事だった。
其処まではいつも通りだったんだが。
その後気の強い女の子の方が経典を求めてきた。
少し状況が変わった、然し誰であろうと求めたる物に応えるべきが
私がここに来る時に課したルール、私の元にある限り書物は持ち腐れだ。
なので特別な経典を彼女にそれを持つに足るかをルーンの幻影魔術で試す。
結果は……見事に打ち勝った。それも予想外な事に思わず度肝を抜かれた。
気の弱い方の小さな彼女だ、此方の試しの仕組みを見抜き暴かれた。
友人の為に望んで力を貸したのなら、其れは挑んだ彼女の力だろう。
渡した二つの経典が彼女や連なる誰かの為になるのを願おう。
もう一つ、見つけた経文を求める事が無ければいいけれども。
そのまま仲良くお二人のデートを見送った。
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またある日、ピシャリと戸を開く音。
思わず吃驚してきた人物を見て見やるとまた珍しい人物。
外套を付けた少年と、着物の少女、その二人は獣の耳をしていた。
どうやら絵の関係を本をお求めな様子だったが…女の子の方はお茶目だった。
わざわざその手の本を此方に持ってきてお買い上げのつもりのようだが、
明らかにその本を買える歳に見えなかった為に結果、買わせるわけにはいかず。
そのお客さんを話をしていて、思わぬ事に意外と世間は思いの外狭いというか。
こういう事もあるものだな、と。
どうやら少年は前に開催された芸術展に作品を出展していた参加者だった様だ。
後でわかった事だが彼、山宮トレバーと言う少年は
コヌマの竿職人の昏さんの友人だったと、また次回に記す花見で話して分かった事だった。
なので彼の為になるように、少しばかりの手心に本をお勧めした。
また芸術展が開いた時、又彼の作品を見ることができるか、楽しみだ。
然しこの世界、神様がやはり身近に存在するなぁ。
これまで店に訪れたお客さんの話はこの辺にしよう。
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少し前、店に訪れた青年からお勧めされて訪れた
タニモリ区の桜並木道。赴いてみたが噂に違わぬ絶景さで息が漏れた。
一年中季節を問わず咲き誇り続ける名所もあり、同じく散歩する人々は随分多かった。
その道中の自販機は味噌汁だったな、まぁ割とそれっぽい風情。
自販機近くのベンチでちょろっと褐色の人と少し話したぐらいだったが、
のんびりいい天気に、こういった場所でゆっくり過ごすには最適だった。
然し帰路に立った道中に…時間的にはまだまだ昼だったはず。
突然その道中で辺りは夜のように暗くなったのは、意外だった。
その夜桜から舞い降りてきた桜の花弁1枚は、今でも自分の手にある。
枯れることなく、今この時も有り続けているが、何をもたらしてくれるのだろうか。
そして……また別の日。その日に桜並木にはいなかったが。
知り得なかったはずのある力の出来事を感じた。
其れを辿って起きた出来事を、果たしてこの日記に書けるだろうか。
いや、恐らく、書くだろう。
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また別の日、風が寒い日に少しご飯が食べたい気分だった時。
マシカでどことなく暖かそうな雰囲気に佇んだ純喫茶。野ばらと言う名前。
窓から見える陽気な雰囲気に釣られてそのお店に転がり込んだ。
落ち着いて少しムーディなマスターさん、そして明るい少年の店員さん。
金髪でこれまであった中でも随分個性的かつ天然が眩しく光る子だった。
人懐っこさを感じて、店の明るさをその子自身が示している様だった。
思わずそんな彼の人柄に釣られて随分と話に乗じた。
店の味も然ることながら、イバライスにその当時の季節のメニュー、
ポトフとチーズフォンデュも格別ながら、色々な話をした。
思わず話が乗じて、少年の理解の範囲外な話をし過ぎたのは反省しよう。
少年は、彼自身にも並々ならない悩みがあったようだ。
然しどうやら、そんな今の彼自身を大事に思ってる友人がいる様で。
だからこそ、少年自身が今のままを突き進むか、変わっていくかは彼が決めるべきだろう。
それに、彼自身との話で、思わず記憶を思い出したことがあった、決していい思い出ではないが。
私にとっては切っても切り離せない。 ゲーム
今の自分を決定づけた、始まりの空飛ぶ椅子取り遊戯を。
そんなことを思い出して耽っていた自分を、少年は不思議そうだった。
良い頃合いまで話した分、随分と入り浸ってしまったが、心地の良い
お店だった、次バーナー付ける時は一発で付けれればと思う。
また来る時、雛君の笑顔を見れたらいいな…。
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またある時、一度訪れた事のある冷えた喫茶店。
例のクールビューティなあの人に会いに行こうと赴いたが。
お店にいた人物は別の店員さんで、例の女性店員さんはいなかった。
そしてどうやらまたいつ来るかはわからないようだ。
何だったらお店に来るようにしておいてあげようか、と計らいを頂いたが、
その人自身の意思で来て貰ってこそなので、と断りは入れつつ。
ただその人自身は割と陽気な感じで話が中々乗ってくれる良い人だった。
紅茶とクリームパスタはシンプルながら、これぐらいが良いと思う一品だった。
次来る時、例の人に会えればいいけれども、どっちかと言うと忘れてそうだが。
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これは、初めて私がヒーローの存在が街にいる事を知った日だった。
アンバーブリッジで買ったばかりのバイクを走らせてた日。
なんか、道の真ん中で突っ立ってた重装甲の何者か。
その頭部はとても円柱で縦長いフォルムで、バケツだった。
彼が見上げていた青空の様に鎧は青く、然しよく見れば所々に傷があった。
本当に、ヒーローなのだろうと心なしかその姿を認知できた。
交通整備と言っていたその自分を大きく見せない謙虚さに、
多大なことはなかったと知らぬ私の心遣いは、本人の在り方なのだろう、と。
私はそんな彼に「ありがとう」を告げて然ることにした。
「ありがとう」は、ヒーローを目指す者にとって
誰かに、そしてヒーロー自身にとっても一筋の希望の光を差し込むことだと。
嘗ての古い記憶に見える友人の背中が、其れを教えてくれてたから。
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ヒーローがこの世にいるなら、その真逆もいなければ成り立たない存在もいる。
そんな中でも、変わり者な種の存在として見つけて出会った、別の日の話。
又もマシカの橋でバイクを走らせていたら、今度はまた別の珍妙なものを見かける
倒れてたその姿を見るに思い浮かんだのは、“魔法少女”だった。
自分の知る知識では魔法少女は正義の味方、と言うイメージだったが
彼女はどうやら“ヴィラン”、ヒーローと対を為す存在として活動してた。
然し何やらズタボロボンボンだったために手を貸しそうとして、拒否された。
少し荒療治ながら無理矢理応急を施してあげたがとても不服な様子そうだった。
彼女のポリシーをその時まだ理解せぬまま、これで大丈夫だろうとその場を去った。
これで終わるかと思いきや、また同じ場所で二度目の出会いと果す。
用事を済ませて橋を通ろうとバイクを走らせていたらなんか空を飛んでる何かが見えた。
眼に入った時には、其れは撃ち落されて落下してた魔法少女。
痛そうにゴロゴロと、相手に情けを掛けられた後によろよろと飛んで去っていった。
因みに相手をしていた青年は後々で何度か見かける事になる創藍高校の教師さんらしい。
魔法少女の後を後ろで見ていると不時着する姿が見えて、思わず其方にバイクを走らせた。
行ってみると案の定ゴミ溜め場に突っ込んだ形で、姿の華やかさは惨めな姿だった。
近づき話しかけてみて、会った時よりもコテンパンだったようで、その姿を見られて
泣き言を放っていたのを見てまだまだ元気だと悟った。
何度も負けて懲りないのだろうか、そう思いながら話していて。
そこで始めてその悪役魔法少女のポリシーと言うか、信念と言えるべきものを聞いた。
彼女はヒーローとの勝ち負けそのものが重要ではなく、
彼女にとって自分自身が『悪』という役割を担って、ヒーローを立たせる存在だと。
その時、自分は言葉を失っていたような気がする。正気なのかと。
彼女の目指す役割は傷つきながらも何のメリットも果たさないものではないか、と。
然し私は私自身で『そんなことはない』と、自分自身の人間性が結論を付けた。
『必要悪』、自分自らが悪になることでヒーローと戦う事で、相手を輝かせ誰かの希望になる。
その役に順ずる難しさは並大抵じゃないことも理解していた自分は、あの時
彼女を助ける事が彼女の悪役の立場に泥を塗るような行為だったことに気づいて、改めた。
何故そんなことをするのかは、きっと彼女の持ち得てる思い出しかわからないだろう。
そんな姿の魔法少女は、目指そうとする『悪役』であり、彼女自身が示す『正義』だ。
エンターテイナーを往くそんな魔法少女をファンとして追いかけてみたい、そう思った。
ファンからの手向けとして星石を彼女に渡して、彼女の『悪業祈願』をお守りとして託した。
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もっと書き上げたい所ではあったのだけれど、今回はここまで。
まだまだ溜め込んでた出来事がいっぱいある。
テレジアさんとのオンラインゲーム、花見、まかろにと言う白黒の少女。
強盗事件、廃棄港の大騒動、射的、創藍高校で起きた3つの出来事。イノカク。
もし書けるなら、とおりみちでの、あの少女との出会い、黒い館。
この頃から、ほのぼのしていた生活がだんだんと一変していくのを感じる。
自分の在り方が、ただの変わらぬ平穏を望んでない証拠なのか。
何よりも、自分の人間性が“関わる”という事を止めないからこそ、こうもなっているのだろう。
ともあれ、また次回。