‐番外-
時。
時刻は食事会後のその日の深夜。
今田書店、本棚が並ぶ店内。
その店主に「夜、正面入り口に。」と誘われた。
深夜、お店の前に来れば、明かりはついていない、が、
引き戸に手を掛ければすんなりと入り口は開くだろう。
「こんばんわー、来ましたよー?」ズチャ,ズチャ,ズチャ
ズチャズチャズチャ、と音を鳴らして入ってみれば
「よう、来たな。」
カウンターの机のデスクライトが照らされ、
そこには店主が何かを読んで椅子に座って待っていた。
今田
友人A
森那「あれ!?、話が違いません!? 名前は伏せるんじゃ!?」
今田「いやもういいかなって…。」
森那「僕のこれまで守ってきたキャラが!」
「こんな時間に、どうしたんですか?」
「ちょっとな。」
パタンと、本を畳んでカウンターの前に、店主とアリスを挟む位置に置く。
「…?」
その本には「Astral Dimension」とつづられた本だった。
「見てもらいたいものがあってここへ呼んだんだ。」
「理由は……そうだな、牛のお礼ってとこだ。」
モ゛ォーーーーーー
庭の方から牛の鳴き声が聞こえる。
「あ、まだ食べてなかったんです?」
「いやなんか、……意外と間近で見ると可愛くて困ってきた。」
このまま飼いそう。
「松阪なのに…」
「生きたまま送られてくるなんて誰も思わないよ。」
ハッと苦笑をする。
「そういう破天荒な所、本当に変わらないなお前は。」
やれやれといった具合に、椅子から立ち上がる。
「いやあ、半ば趣味みたいなところがありますから」
カウンターからアリスいる本棚群の方へと移動し、
じゃらり、と或る物を懐から取り出す。
取り出したるは、金の鍵と銀の鍵。
「なんですか?それ、それにその本も」
「見ての通り、鍵さ。その本は…」
「これから見せるものの取り扱い説明書、といえばいいか。」
そうアリスに行った後、片方の銀の鍵を…屋根の方、上へと向ける。
「ほ・・・?」
それをゆっくりと回せば…。
その回す間隔と同じ具合に、天井に紋様が浮かび上がっていく。
その光が赤く完全に輝ききったと同時に光が消え、
地響きもなく、然し、何らかの絡繰りの仕掛けが起動するかのように。
天井が何層ものゲートのようにその先に見えたものは。
「なんかすごいことになってるー?!」
それは円柱状の空間で、然し明らかに書店の屋根の全長を
優に超えている、其れ処か書店以上の度外した広さを誇り、
その円柱状の空間の壁には無数の本や、本と呼び難い何かが、
何らかの異能の力か、常時に浮遊しながら本一冊一冊が
まるで整理されていくかのように動き回っている。
本が浮遊していった先には本棚へと、あるべきところへ収まっている。
それでも無数の本がその空間で飛び交っている。
だが何よりもその上の先、階層ともいうべき、
例えるなら『塔』の様な高さを誇るその天井と言える地点の先には…。
金色に輝きながら、何らかのエネルギーの形を視覚で見せながらも白く輝く、
地平の向こう側の様な門があった。
「どうだ?」
上を見上げながら感想を聞いてみる。
「ほほー…原理は分りませんけど、この世界はなんでもありですからね!」
「さしずめこれは扉…いえ、門」
「別の世界があるということですか?」
「よくわかった……いや。」
「アリスならわかると思ってたよ、その通り。」
「あの向こうに見える光が”次元門”だ。」
「次元の中継界と呼ばれるアストラル海を旅する者たちが使う、いわばポータル。」
「近くまで寄ってみるか?」
そう店主が言うと、体が無重力の様にふわりと浮く。
「おっとと……え。近く?」
「ふふ、まさか!」
「行くなら近くじゃありませんよ、門の”向こう側”」
「その先の世界です!」
そうアリスが答えれば、店主は瞑目して少し笑う。
そのままアリス共に無重力で上へ、門の近くまで上がっていく。
周囲を無音にかき消すほどの強烈なエネルギーを発しているのがわかる。
門の近場までくれば停まり、少しして店主は口を開く。
「思っていたよ、お前ならそう言うとね。」
「いや、わかっていたが正しい。行くつもりだったんだろう?」
「世界の外へ。」
「もちろんですよ、こんな面白そうなの、見過ごせません」
「それになんだか、これが正しい気がします、理由は分らないけど」
「この先の世界が、もっと面白いかもって」
「そうだな。」
「自分の力量を頼りに可能性を開けば、新しい何かに巡り会うことも十分ある。」
再びアリスを見やる。
「この世界はどうだった、森那絢莉珠。」
「楽しかったですよ、とっても」
「"昔”を思い出せました……でもやっぱり」
「特別な力が、僕を人間じゃなくて怪物にしてしまうんだと気づきました」
「今度はただの、性格の悪いマセガキのアリスで、思いっきり悪いことをしてみたいですね!」
「それはどうかな」
「元から人間そのものが、カテゴリーにおいて怪物かもしれない。」
「頭と生涯一つで、生きる価値を残して進化していける生き物なんてのは」
「全く以て生物として狂ってる枠組みだと思ってるよ、今も昔も。」
「そしてそれをどんなに塞いでも止めれないものだ。」
何かを言いきった後、小さくため息を吐く。
「………寂しくなるな。」
そう答える、然し、そう寂しそうな顔にも見えなかった。
「……前の約束、覚えてるかい?」
「驚かさせてくれよ、お前の在りのままの力で。」
「世界中を巻き込むようなパーティを繰り広げるように。」
「俺はもう少しここにいる、いつかお前の極悪非道が…ここにまで轟くかどうか。」
「期待せずに待ってようかな。」
「言い方ひっどーい! でも、分りました。」
「近いうちに驚かせるように、やってみますね!」
「何人か巻き込みますけど!」
「それはかわいそうに。」
「…最後に、ひとつ。」
「ダメもとで聞こう。もしここに見てやってほしい人でもいるなら」
「代わりに俺が見守っておくけど。いるか?」
「頼みでもいい。」
「なんか今から死刑を受ける人にする最後に喰いたいものはあるか?的な奴ですね……。」
「まぁ似たようなもんだろ」
ふははと笑う。
「ならばなおさら、無用な気遣いですとも」
「悪役にそんなのは…似合わない」にこ
「そうかい」微笑んだ
「さよならだな。アリス。」
「えぇさようなら、今田さん」
「そして」
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アリス 「”また”!」 |
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今田 「…あぁ!」 |
「選別だ、”見送りの案内人”を付けといたから、快く行きな!」
そう告げた後に、アリスの体は上の方へと…。
次元門への輝きの中へと、吸い込まれるように消えていく。
その感覚もまるでないような、無重力を越えた体感の中の向こうで。
きみは『初めて見るが、見覚えのある緑の白髪の少女』が、君を待っていただろう。
『…………。』
彼女はしゃべらないが、待っていたように貴方の前に立っている。
「……どちらさま?」
「私は、リンカー(繋ぐ者)。」
ニコッと笑った。
「行こ、おにーちゃん。」
貴方に踵を返し、その白い地平の向こうへと、少女は裸足で歩いていく。
「あ、ちょっと待ってくださいよーおーーい!」
置いて行かれないよう、走って行く
君は歩いていく、白い地平線の向こうへ。
まだ知らぬ、新たな新天地の向こう側へと……。
イバラシティに住む一人の書店長が見届けた。
彼はまだ、この世界を見ていたいから。
-終-