
ふわふわと。
周りに揺蕩う黒の砂。
ふわふわと。
霧のように纏い揺蕩い、創りだされる万の武器。
ボロボロのグローブ、磨かれた石片、滅びを与える光の束
などなどなど。
大きな金の時計台。
その袂に広がる大草原に、さまざまな種が集いにぎわう。
その袂に広がる大草原には、似つかわしくない品が現出する。
ここはいずこか。
――拠点。いわゆる、ベースキャンプ。
拠点に態々戻るのは、進むためには補給がいるから。
居るだけならば居れはするが、進むには“体力”というものがいる。
ワタシの身は漕がれ進んでいくが、漕ぐものの体力がなければ進むに能わず。
ワタシの身も整備をせねば、漕いでも進むことは能わず。
ゆえに休息の意味合いの補給がひとつ。
それともうひとつ。
パワーストーンを用い、戦利品や装具や技術や知識を用い。
拠点に開かれる露店や集う様々と、交換し進むための準備をする。
そのカタチの補給をするのが、目的のひとつ。
そんな、姦しい草原の一角で。
ワタシの胸中に丸まって、ぼんやりうとうとしている猫。
ワタシの胸前からかけられた、ボロ布を掛けて丸まって。
ボロ布には文字が書かれている。
概略すれば“武器を創れます、おやつをください”。
襤褸をまとい丸まる猫は、さながらダンボールに包まる捨て猫のよう。
そんな状態でぼんやりと、ぼやぼや時が過ぎていく。
ワタシの胸の内から聞こえてくるのは、ひたすら静かな息遣い。
胸の外を満たしている、大きな姦しさと対照的に。
布擦れも、動きも、息遣いにも、ほとんど音すら発しない。
周りにさしたる興味もなさそうに、しているこの静かな猫は。
現実興味はそこまでは、あるという方ではないのだろう。
されど気をさいていないわけではないようで。
午睡のごとく隙だらけの風体をしているのにもかかわらず、依頼に人が近づいたときのみ身を起こして応対した。
応対するときは、とても速い。
カノジョが操る黒砂が、素材を万の武具に変える。
相手の希望を汲んだよう、さらりと変えてまた丸まる。
代価のおやつ――今回はソレを手に入れられるだけのパワーストーン――を、ワタシの胸へと入れるように促して。
カノジョは基本、ほとんど動くことがない。
どころか、話すことすらない。
ほとんどの時間を、まるで“いない”かのように、音も存在も主張しない。
それはワタシの肩で鳴き語る、小さな鳥とは比べるべくもない差であり。
拠点のさまざまな種と比べればより顕著で、いないと思うほどに静かにしている。
それこそ何事もないならば、延々と動かぬ位には。
万の武器を創るためには、万の知識が必要である。
存在をもかき消す程に主張せぬよう在るためには、そのための訓練が必要である。
その上で有事即行動するには、それだけの反射神経がいる。
たとえ野生の獣であれど、存在を無に等しくできるものはごくわずかで。
大概は音を、匂いを、気配を主張し、察知し狩り狩られることになる。
立ち上がりが数瞬遅れるだけで、強者も飢え肉と成り果てる。
動きを見るだにこの猫は、おそらく狩りと殺しの育ちのもの。
それも猟犬のように吠え駆け抜け追い立てる側でなく、忍び寄り近づいて狩る暗殺側の。
それもなり立て生まれたてのものではなく、経験重ねた熟練者の。
老獪と呼ばれる程に経験を積んできたのであろう静かな猫は。
されどワタシの胸中で、丸まり寝ているのが常である。
道行に立ちふさがれた時こそ身を起こすが、それは嬉々としてではなく
まるで致し方なく、それしか手もなくとつぶやいては飛び掛かる。
まるで。
戦うことを狩り殺すことを、己が手を下すことを忌むように。
まるで。
されどそれしか、己が生きる術を知らぬように。
事実
カノジョが万に創りあげた武器のうち
カノジョ自身が扱う武器は、ただひとつだけしか創られず。
カノジョ自身が扱う武器は、傷つける力がとても乏しいものだから。
ただカノジョの身を護る、そのために創られたものだったから。
――I borrowed No.762.