-■■の記■ ■■6-
■■■■■、■■■■■■。
■■、■■■■■■■■■■■■■。
声が、壊れ始めた。
何を言っているのかわからない。
お前は、何を喋っているんだ?
お前が、言っている意味がわからない。
お前に、喋らせる意味があるのか?
違う。
これはこの声の主が壊れたのではない。
この声の主はきちんと喋れている。
もしかして、
もしかして、
僕が壊れ始めている??
あれ?
どうして?
何も思い出せない。
僕は、■■■■■■。
『■■』を■■■者。
■■■■■という■■における『■■』の■■であり、
『■■』と『■■』を■■■者。
僕は
誰、だっけ?
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アニ 「おい、レイ!」 |
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レイ 「・・・はっ!?」 |
声をかけられ、ふと僕は目の前にいる彼らを見やる。
その瞬間、僕自身の記憶が脳内に溢れてくる。
僕は『■■』を司る者。
ガルムレイという世界における『■■』の使者であり、『■■』と『知識』を与える者。
名を──レティシエル・ベル・ウォール。
・・・ありゃ。全部を思い出したわけじゃなかったか。
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マリス 「危なかったな。アニが干渉していなければ、一気に奪われていたぞ」 |
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ヘル 「っていうか今一瞬乗っ取られかけてたでしょ」 |
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レイ 「うん・・・。脳内でざわざわしてる」 |
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シルバ 「・・・このまま行けば誕生するでしょう。ですが・・・」 |
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ディー 「・・・逆に乗っ取られる可能性もある、か・・・」 |
このままだったら、僕はどうなってしまうのだろう。
僕という一人格が消えて・・・そうして、戻ってこれなくなるんじゃないか。
『レイ・ウォール』という存在そのものが、なくなってしまうのかもしれない。
そうなれば、いろんな世界に配備した『レイ・ウォール』も消える。
・・・そうなれば・・・“彼”を助けることも出来ない・・・な。
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ディー 「・・・大丈夫か?」 |
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レイ 「?」 |
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ディー 「んや、この中では俺が一番付き合い長いからよ。お前が何考えてるか大体わかっちまう」 |
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ディー 「・・・このまま乗っ取られたら、ベルトアさえも助けられねぇって思ってるだろ?」 |
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レイ 「・・・・・・鋭いね、やっぱり」 |
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セノ 「べるとあ??」 |
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ユウ 「・・・・・・」 (。・ω・。o[あ、そっか。セノは誕生したばかりだから知らないね]o |
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レイ 「ん、ああ。そっか、僕の全部の記憶がセノに行ったわけじゃないんだったね」 |
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レイ 「ベルトアは・・・僕の大事な友達だよ」 |
──ベルトア・ウル・アビスリンク。
僕と同じ立ち位置の、
3人のうちの1人。
彼が今何をしているのかと、セノに問われた。
だから僕は、こう答えたんだ。
「魔力を作る世界樹となってしまった」
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カサドル 「・・・アマベル・オル・トライドール・・・」 |
繰り返し、カサドルはその名を読み上げた。
アマベル・ライジュのもう一つの名を。
『優しい反逆者』という意味の名を。
アマベル曰く、
『世界に反逆した者』のことらしいが。
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アマベル 「2万年前だったかな、魔力が蔓延ったのって。その頃に名前を今の名前に変えたんだ。」 |
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アマベル 「キミが誕生したのもそのぐらいだったはずだよ」 |
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カサドル 「はい。それはしっかりと覚えています。黒い竜巻とともに誕生した、ということも」 |
ガルムレイという世界において、闇の種族というのは誕生してまだ間もないもの。
カサドルという存在が誕生したのはつい最近だが、
カサドルの素となった闇の種族が生まれたのはガルムレイ時間軸における2万年前だ。
その頃の彼は、人の姿を保てない黒いアメーバ状のモノ。
コミュニケーション以前に、目が見えず、耳を頼りに生きていた。
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カサドル 「・・・そういえば、誕生した時から俺は目が見えていませんでした」 |
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カサドル 「こうやってまともに喋れるようになったのは、すべてアマベル様が俺に名を与えてくださったおかげ」 |
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アマベル 「うん、そうだね。もう1万年も前の話だけど」 |
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カサドル 「・・・早いですね、時が経つのは。魔力が蔓延ったのも───」 |
ふと、言葉を止めるカサドル。
脳裏に浮かんだ言葉を飲み込んで、考えを整理している。
自分が誕生したのは、魔力が世界に蔓延したから。
しかし魔力をガルムレイという世界に蔓延させたのは、ただの人間。
そして魔力というものは、人から人へは渡すことはできても、勝手に移されない。
では、ならば、
どうやって、魔力が蔓延した?
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アマベル 「あ、その無言は何か考えてるな~?」 |
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カサドル 「・・・いえ、すみません、・・・なんと言えば良いのかわからなくて」 |
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アマベル 「まあ、キミの考えることはなんとな~く予想がつくかなぁ~」 |
クスクスと小さく笑うアマベル。
従者が考えていることなどお見通しだと言わんばかりに、彼は説明した。
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アマベル 「魔力が蔓延したのはオルドレイ・マルス・アルファードが原因だと言われてるが・・・そうじゃない」 |
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アマベル 「実際には、ベルトア・ウル・アビスリンク。彼が魔力を蔓延させたのさ」 |
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カサドル 「・・・ですが、彼は」 |
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アマベル 「うん。彼の身体が魔力を毒と認識して、彼を蝕んだ」 |
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アマベル 「だから、レティシエルはその毒を広げないために、とある島にある水晶の塊と融合させた」 |
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アマベル 「そうしたら、世界樹が出来ちゃって・・・魔力が広がっちゃった」 |
柔らかに放つその言葉は、どこか、虚しさを兼ね備えているようにも聞こえた。
カサドルはあえて、アマベルのその感情には言葉を入れない。
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カサドル 「・・・では、その世界樹となったことが原因で、世界に魔力が・・・?」 |
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アマベル 「ん、そういうこと。レティシエルにとっては、予想外すぎる出来事だし・・・」 |
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アマベル 「何より、そのせいでベルトアを助けたら更に混乱が広がるということに気づいてね」 |
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カサドル 「混乱が広がる・・・?」 |
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アマベル 「うん。ベルトアを普通に水晶から助けるだけではダメになってしまったのさ」 |
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カサドル 「・・・・・・まさか、あの男が言う『助ける』とは」 |
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アマベル 「キミの考えているとおりだよ」 |
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アマベル 「代替となる己の生贄(かわり)を探している」 |
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カサドル 「代替となる己の生贄(かわり)を探している」 |
──二人の声は、レティシエルたちには届かない。