
私は、丸い・ウィッチ・ホール。
私の趣味は覗くこと。知ること。
指で作った丸い穴から世界を見れば、私は私の知りたい全てを見れるのです。
異世界だて、頭の中だて、秘密の情事も、世界の秘密ものぞき放題知り放題。
代わりに課せられ、許されるのは知ることだけ。
誰かに伝えて伝わってしまってしまえば、私はどこからも消えてしまえるのです。
覗くだけで出来る事はなく、触れも出来ばせんです。
それでも私はやめられないので、覗いて知るを今日も求めてしまいます。
「さてさて、今日はどこを覗きましまし〜」
指で作ったまぁるい穴からどこかが見える。
~ ○ ~
そこは魔王城、魔王の玉座。
そびえるのは身の丈が大人を縦に四人並べたよりも大きく、それに見合うどっしりとした肉の体躯を持ち、五本の長い腕、八本の太い脚、伸びた尻尾には棘、裂けた口は大きく凶暴な牙をズラリと並べ、身体中に浮かんだ無数の瞳がどう猛に睨みつけてくる、怪物の王。
それはその世界で魔王と呼ばれるに足る存在だった。
対するは一人の男。
軽装に剣を一振りだけ携え、強大なる魔王に立ち向かっている彼こそはその世界の勇者。
人の身でありながらその身に宿した運命の力は大きく。これまで全ての魔を払い退けてきた絶対の力だった。
だが。
「ぐあっ!!」
魔王が振った腕のひとなぎを受け流しきれず彼は大きく吹き飛ばされてしまう。
「く、そっ……! ここまで、来て……!」
連戦に次ぐ連戦。
そしてここに来ての魔王の復活劇で彼の力は既に底を尽き掛けていた。
「ぐぅっ!?」
情け容赦ない攻撃が降り注ぎ、直撃だけは避けたもののついに彼は膝をついてしまう。
ここで敗れるわけにはいかないという強い思いとは裏腹に、今の彼には力が足りなかった。
せめて後一人。助けがあれば。
つい心の奥で願ってしまうもそれは弱った心の見せる幻影に過ぎない。
魔王の口が大きく開き、そこから膨大なる力の波動が溜め込まれていく。
「これは、無理か……。ならば、最後は……っ!!」
自身の末路を悟り、勇者は覚悟を決め、立ち上がる。
策は無い。
ただ突き進み、避けきれぬ波動の奔流に晒され屍となるのみ。
決死の思いで彼は駆け出す。
同時に魔王の口から閃光が迸り、勇者の視界を白に染める。
「うおおおおおおっっっっ!!!!」
だが、その力が彼を灼くことはなかった。
「よお、しけたツラしてんな」
「なっ。お前は!!?」
直前で勇者の身を助けたその者の背中には悪魔の羽が生えていた。
それはかつて勇者やその仲間と死闘を繰り広げ、最後には撃退したはずの魔王軍幹部の悪魔であった。
「なんだもう死にそうじゃねぇか。こんなんで魔王様に勝つつもりだったのか。笑えるぜ」
「くそっ、トドメを刺しに来たというわけか」
「よく分かってんじゃねぇか。言ったろ? 魔王様は絶対渡さねぇって。
ザザ、ザザザザ、ザザザザ
ザザ、ザザザザ、ザザザザ
ザザ、ザザザザ、ザザザザ
~ ○ ~
あら。見れなくなってしまいました。
あぁ、夢中になり過ぎて指の輪っかが外れてましたね。
これからなところでしたのに、残念ですねぇ。
「仕方がないので〜、少し休んで、また後で続きを見させてもらいましょう。折角なので次はまた最初から見直しですね」
まあ楽しみが減らなかったということで。
ではでは。またまた。