
”ここはいつでも暗いから、目を塞いでいなくてもいい。”
気が付くと、少女はハザマの地に立っていた。
戸惑いながら周囲を見渡したとき、足元でぐしゃりとぬかるみを踏むような感触。
見下ろせばそこに、黒くどろどろとした『獣』が伏せている。
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リズ 「お前もいるのか。…そうだよな」 |
今までも、これからも、どこへ行こうとこの獣は少女の傍らにある。
惰弱な少女の唯一の「武器」だ。ハザマにも付いてきたことに、ひとまず安堵した。
獣は地面を這いながら、身体に触れるものを腹の口で手当たり次第に飲み飲んでいく。
ガラクタも、死骸も、あるいはまだ生きている何かさえも。
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リズ 「…おい。戻れ。勝手に先へ行くな」 |
空腹に任せてずるずると這っていこうとする獣を、ぴしゃりと引き留めた。
この獣は獲物に見境がない。争う必要のない相手まで襲っては面倒だ。
うずくまる獣をよそに、少女は空を見上げる。
時計台。壊れた風景。廃墟を吹き抜け削っていく風。
始めて見る世界でも不思議と違和感はない。
あの突然のアナウンスからしばらく経って、ようやく『本来の姿』に戻ってきたのだ。
ならば、成すべきことはひとつ。
この身を脅かす連中を片っ端から食い潰す。
そうして、自分たちの居場所を奪い取る。目を塞がなくてもいい場所を。うずくまらなくてもいい場所を。
今までと何も変わらない。だから恐れることはない。
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リズ 「…行こう」 |
目深にフードをかぶって歩き出した。
どこへ行くというわけでもなく、ただ奪い取れるものを探して。
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ナヴァル 「縺翫?縺代?...」 |
…少女の後を、召されるままに獣も行く。
…
…
時間が経ち、状況を理解するにつれ、ぼんやりと混濁していたあの街での記憶も少しずつ自分に馴染んでくる。
するとはっきりしてくる、受け入れたくないひとつの事実。
思わず漏れる歯ぎしり。
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リズ 「…」 |
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リズ 「あの妙な女が言ってた『ワールドスワップ』…」 |
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リズ 「仮の住人って、…」 |
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リズ 「…………””住人””なら何でもありか!!!!!」 |