それにしても。あっちの『私』ってのは、随分と人に囲まれてるわね?
いやさ、別に嫉妬してるわけじゃないよ。正直に言えば、別にどうだって良いと思ってるもの。
そもそも、普段からして私は一人でぶらぶらしているか、家に引き籠っているか、その二択だもの。
あとは、たまには仕事をしてみたり、とか? そう考えると、あっちの『私』は随分とたるんでること。
金を取る仕事だってのに、随分と簡単な事しかしないものね? 自分で自分に文句を言っても仕方無いんだけどさ。
あの金髪のイケメン、嫌いじゃないんだけどね。さっき戦った相手の事よ。
たぶん、実際に会ってお話をしたいタイプじゃあないね。私向きじゃないわ。
眩しくて目が潰れるね。実際。
目が潰れて何か困る事なんか、あったっけ? いやふと思ったんだけどさ。
何かあるかな。まあ、何も見えないってのは、確かに不便な生活だと思うけどさ。
そもそもからして、私自身が人から見えなくなる、なんてしょうもない特技の持ち主だからね。
自分の姿が消えるついでに、自分も何も見えなくなるだけ。それで良いんじゃない?
なんてね。そう思いはするんだけど。
何であんな事考えて、珍しく実行にまで移したんだろ。
目が潰れた後で、きっとそう考えるに違いないわ。じゃ、キャンセル。やめる。やらない。やらなくて良いわ。
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キョウカ 「うっさい。ますますもって機嫌悪いんだからさ、黙っててくれる? 黙れない? そう」 |
反射的。ナイフを抜く/目を切り裂く。顔を抑えて、その場に崩れ落ちる。
蹴り倒す。馬乗りになる。肩を踏み潰す。
瞼の上/眉の下。眼窩のフチ。適当な位置。
ゆっくりと、ナイフを差し込む。適当なところまで差し込んで、目玉を掬い取る。
取り出した目玉を眺める。切ったはずなのに、それは綺麗だ。
綺麗な瞳が、私を"見て"いる。
気に入らない。
そういえば。中国の武将に、自分の目ん玉を食ったのがいた。
無理矢理口を開かせて、目玉を押し込む。
口を閉じさせる。殴り付ける。手が痛む。
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キョウカ 「……んあ?」 |
手が、じんじんと痛いね。ジンジンジンジン血がジンジン。
……じんじん、ってのは、どういう表現なんだろうね?
少なくとも、今は血が出てないけどね。普通に手が痛いだけだわ。
そりゃそうよ。つい岩肌を殴るなんて、何やってんだろうね私は?
そんな強靭な手はしてないって。ホント。
さて。お茶の一杯も貰った事だし、仕方ないから少しは頑張るかな。
三対一ってのが、ちょっとどころじゃなく気に喰わないけど。
こういう卑怯なのは、私の専売特許だよ。嘘だけど。