それでもあの人は優しい人だから、全てを赦すのでしょう―――
「何も言わずに、しばらくこの子を預かってくれないかしら」
夕刻の訪れるグリムドール郊外、教立孤児院の敷地に三人の人影があった。
淡い金髪の長耳少女ネア、薄氷色の目をした白い少女ミオ、
そしてもう一人は、ボサボサのくすんだ金髪に、濁り淀んで腐った血液のような色の目の少女。
襤褸切れのような、煽情的な黒い服から伸びる四肢は、棒切れのように華奢で細い。
二人に背を向けてしゃがみ込み、剪定鋏を片手に花壇の西瓜の手入れをしていた。
「構わないよ、ここは本来そういう施設だからね。
今更一人二人増えたところで、あまり変わらないよ。
それに―――」
何かを言いかけたところで作業の手を止め、鋏を置いて立ち上がる。
それが彼女の癖なのか、跳ねた髪の毛先を指でぶちぶちと引き千切りながら。
「君は、西瓜の剪定の方法は知ってる?」
首を横に振って否定するミオ。
背の低いミオに屈んで目線の高さを合わせながら話す辺り、どうやら子供の扱いには長けているらしい。
屈託も無く、それでいて嘲嗤や威圧も感じさせることのない、優しげな笑顔。
それはかつてミオが父親と慕った男が、彼女だけに見せる笑顔にもどこか似ていて。
「ボクはネアと少しお話があるから、ちょっとだけ待っていてくれるかな?
花壇で花でも見ていてよ、ああ、鋏は危ないから触らないようにしてくれると助かるよ。
あと少しで夕食の時間だから、自己紹介はそのときにしよっか、部屋や施設の案内は、そのあとで」
………
……
…
「―――それに、部屋の空きはあるからね。
あの子の父親、レオン・ローゼンフェルドの所為で。
……黒薔薇事件の影響ですっかり風化してしまったけれど、
少女連続拉致殺害事件では、うちの子も何人かやられてるんだよ」
「……よく引き受けてくれたわね」
「別に。公私混同はしないだけさ。
空室ばかりだと教会からの助成金も減るから、他の子達が飢えることになる。
それに……、悪いのは伯爵であって、あの子に罪は無いでしょ」
「完全に無実ってことは無いと思うけどね……。
先に手を出したのが騎士達とはいえ、黒薔薇事件の方の原因はあの子だから……」
「騎士団のことなんて、ボクの知ったことじゃないさ。
……あの子だって、騎士団に父親を殺されてるんでしょ?
なんだか他人事とも思えなくってね……」
「よくもまあ、そんな風に割り切れるわね。
お姉ちゃん先生は大人だなー」
「誰かがどこかで割り切らないと、復讐は永遠に終わらない。
教えてくれたのは君じゃないか」
「そういえば、そんな話もあったっけね」
「せっかくだし、今日は久々にうちでごはん食べてかない?
きっと、子供達も喜ぶだろうしさ」
「たまには、それもいいかもね」
「今、年長組が仕込んでるところだから、ミオちゃんも一緒に手伝いに行こうよ。
いい子の二人には特別に、ボクの分の人参あげるね!」
「それは自分で食べなさいよ」