『To:ママ
From:鈴咲
title:お使いのことだけど
ママが頼んだお使いだけど、帰ってくるのがかなり遅くなりそう。
ごまかしたらパパも心配すると思うから素直に言うけど、気付いたら変なところにいた。
しかも、なんだかよくわからないうちに厄介事に巻き込まれた。
いつ帰ってこれるかわからない、でも必ず帰るから待っててほしい。
p.s. 頼まれたものは帰ってこれた日に買って帰ります』
――――
かちかちと慣れた様子で手元のスマートフォンを操作し、送信ボタンを押す。
届くかどうかわからないメールを送信して、鈴咲は小さく息を吐いた。
我ながら意味がわからないメールだが、これが今の自分を取り巻く状況なのだから仕方ない。
もし両親の元にこれが届いた場合、確実に心配させてしまうだろうが、だからといって黙っているのも余計に心配させてしまうのは目に見えている。
それなら、今の自分の状況を素直に伝えたほうがいいだろうと思っての行動だったが――本当にそれが正解だったのか、少し不安になってきた。
今度は深い溜息をついて、手にしていたスマートフォンをコートのポケットへしまう。
その仕草に反応したのだろう、“この世界”に迷い込んでから、何度も聞くことになった声がこちらへ呼びかけてきた。
「お嬢、一段落した?」
「……そろそろ相手も待ってくれなさそうだぞ」
きろり、と目の前にいる二人へ目を向ける。
長い黒髪に白いインナーカラーを入れた少女と――気怠げに煙草をくわえている青年。
二人の姿を見て、二人の視線の先にいる血の色をしたものを見て、鈴咲は小さく頷いた。
「大丈夫、届くかどうかは置いといて……とりあえず送信はしたから」
その言葉とともに、静かに歩を進める。
少女と青年の傍に立ち、自分もコートのポケットからカッターナイフを取り出し、刃を繰り出す。
そんな鈴咲の様子を見て、少女は微かに笑みを浮かべ、青年は煙草を慣れた様子で揉み消した。
彼らの手にはそれぞれチェーンソーと小ぶりのナイフがあり、慣れた様子でそれを目の前の敵に向けた。
「……始めようか。わたしたちの第一歩を」
比較的暖かい冬の日。
――六倉鈴咲の戦いは、静かに幕を開けた。