ハザマ。住めそうなところもない、廃墟だらけの、ただそれを除けば『見慣れた』世界で。
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リー 「……あのさ、サク姉だよね。」 |
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サク 「はい。」 |
息を切らした目の前の人間は間をおかず肯定の言葉を吐いた。
どうしよう。
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ハザマにて全てを思い出し、エディアンとやらから説明を聞いて、あの時は大笑いしたものだ。ああ自分がいることにも気づかず和気あいあいと過ごしている奴ら!平和な閉鎖空間にいるやつら!ああ『あの時』の気分と一緒だと!
それで、そうして、笑いながら状況を見るのにも楽だから皆と同じように車に乗ったのだ。道も歩きにくかったし、集団行動は大事ということもあった。なのに、ああ、誤算だ、誤算だ、真っ先に嫌な人と会ってしまった。乗った先がまさか一緒だなんて聞いてないし……チェスだってそんな手軽に相手と衝突しないのに!
改めて彼女を見る。イバラと同じ格好、同じ服、同じ持ち物……何度見てもシティ側の人間だ。もちろん期待を込めて質問をしてみたが、上記の通り即答。表情を見ても怪しい点は見当たらない。
やっぱり、敵だ。
頭を巡らす。ハザマでは街の人間の異能が強化され……シティの記憶が頼りだ。目の前の姉の異能はよくわからない。異能の調査にも積極的に応じず、『弟』にすらその全貌を明かさない。
それを差し引いても、判明してる限りでは危険なんてもんじゃない。
精神汚染抵抗。相性が最悪だ。『姉』はその異能に自信なんてないようだが……なんでこんな異能を潜伏先に与えたのか。
というか姿を真似ちゃったのが行けなかったなあ。……今更言ってもどうしようもないことに悪態をつく。俺はただ遊びたかっただけなのに。
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サク 「満、ですか?」 |
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リー 「分り切ったことを聞かないでよ。それとも服が変わっただけで分からない?」 |
わざとやってるんだから。ああ、わざとやったのにこのざまだ。
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サク 「…………い、いえ、」 |
黄色い目は自分の姿を眺める。上から下に、戸惑うように。まだ確認したりないのか。
やはりこの隙に倒してしまおうか。異能が攻撃系でなければ、こちらの能力が通れば、倒せるだろう。ただ、攻撃を仕掛けにくい。注意を自分に向けている今なら通常なら絶好調。ただ困るのが精神汚染抵抗、せめて抵抗がどこまで強化されているのか確認してからだ。通らなかった場合、形勢は逆転する。それまでは少しずつ力量を測る。もし『本当の姿』が見られていたら……見られていたら、詰み……そうだ、精神汚染抵抗によってはその最悪の展開が、
恐る恐る見上げれば。『目が合った』
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サク 「…………まさか、あなたが、此処にいて、弟になってたとは、思いませんでした。」 |
絶望を認識した瞬間、目の前の人間は俺の『目』を見て跪いた。
……は?
数瞬の油断(悔しいが認めざるを得ない)の後、目の前の人間は跪いていた。