―― ■月■日 ――
ここは何処だろう。
気づけばこの場所に飛ばされていた。
周りを見ても、荒れた土地しか見当たらない。
……一先ず、歩いてみようか。
榊と名乗る男から一通り話を聞いた後、辺りを見回す。
どうもここは、元の世界とは似て非なる場所らしい。
元の場はこうまで荒廃はしていなかった筈だ。
……と、話を聞いている最中からずっと感じていたもの――気配を探る。
憶えのある気配。
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楓 「――おーう、居るんじゃろ?じぃっと見とらんで出てきたらどうじゃ。」 |
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『――……あれ、案外あっさりバレましたね?』 |
何も無い場所に向け、楓が声を掛ける。
それに返した、その声だけが響いた。
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大地 「そりゃバレるじゃろ、同僚の気配も感じられんでどうする。 で、何で声だけなんじゃ」 |
何も無い場所に対して話し続ける、一見すれば完全に不審者だが。
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『声だけなのは、今そこには居ないからですよ。声だけなら届けられるっていう状態です』 |
その何も無い場所から声がするのだから、実に不可思議なものである。
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『それで、アンタ達どうやってここ来たんですか。狭間ですよ?来ようと思って来れる場所じゃないんですが。』 |
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楓 「知らん。何か気づいたらここに居ったわ。仕事中じゃったんだが。」 |
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大地 「ババアと同じじゃ。知らん間に飛ばされておった。」 |
困ったような顔で言う。
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『えぇ……。迷い込んだか、呼ばれてきたか。後者ですかねぇ、榊の言ってた感じからして。 毎回毎回ホント面倒事ばっかり押し付けてくれますねぇあの男……』 |
溜息を吐いたような声が響く。やれやれ、といったような感じで。
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大地 「ん、何じゃ?あの男と知り合いなのかえ。」 |
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『別の世界で多少、ってとこです。まぁそれは置いといて……、 何か必要であれば手助けの類等致しますが。どうしますか?』 |
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楓 「なら、少しばかり頼みがある。お前なら出来るじゃろ?」 |
楓は指をくるりと回すような仕草をし、ぼそりと何かを呟く。
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『……一応出来なくは無いですね。本当に一瞬しか出来ないでしょうけど。 何をする気なのかは今は訊かないでおきましょう。』 |
少し考え込むような間が挟まりつつも、そう答える。
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『この場所に限っては、ボクもこうして介入は出来てもあまり動けないようで。 ハザマと呼ばれているこの場所、どうも本来の狭間とは別のもののようです。』 |
これに関しては侵略行為の勝負の舞台であるという点しかボクにもわかりません、と再び溜息を吐いた。
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大地 「そうか。いや、少しでも手を貸してもらえるというのなら大いに有り難いぞ。 では次以降に頼む。今回は……お前さんの助力前に相手する事になるようじゃからな。」 |
そう言うと、後ろを振り返る。
どろりとしたナニカが、そこに居る。
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『はい、わかりました。 ……ご武運を。』 |
その言葉を最後に、死神の言葉は途切れた。