『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.09.08.22:42、とある施設にて――


　電脳の世界。本来の自分とは異なる姿を取れる故に
実在する本人とは全く異なる人物像を描くことが出来る。


　ディーバと呼ばれた赤いロボット……本体は人間の
男性のようだ。ロボットと少女が他愛もない会話をする。
俺はそのロボットの動作に違和感を覚えながらも、
ロボットの様子を見ていた。
　滑らかに動く金属のボディ、抑揚のある声。
　中身が人間であるロボットは人間らしい動きと声、
そして、感情を込めた動作を見せた。
　ああ、成る程。何となくロボットに感情を持たせる
意味が判った。彼の動きは見た目に反して自然で
滑らかであり、会話はスムーズで喜怒哀楽が分かりやすい。
　要は感情のある方が、人間等の感情を有する者に対して
コミュニケーションを取りやすいのだ。ただ、それが
本来のロボットの役割と合っているのかと問われれば、
疑問しか残らない。
　俺の主な役割はショウ＝ツルギノ少尉の戦闘の補助。
災害時の救助活動の支援も役割であるが、現在の主な
活動は戦闘の補助ばかりだ。感情が必要な行動はない。

　やがて、少女と会話していたロボットの表情、いや、
目の光が少し暗くなった。声色も低い。
　込み入る話ならと立ち去ろうとしたが、少女が
待ってと引き留める。俺にも用事があるらしい。
消費エネルギーの都合で早めに切り上げたいのだが、
それは言うのを止めた。


　少女は本を開く。
「……大丈夫よ。貴方にも、貴方の友人にも最も
最善な結果を運んでくれるわ」
「そう願うよ」
「貴方は私を救ってくれたもの。今度は
私が貴方を助けます」
　二人の会話の邪魔はすまいと必要な情報の
検索をしていたが、少女が気になる言葉を言った。
　私を救ってくれた。少女はロボットにそう言った。
この間のデートの話に出て来た人物とロボットが
同一人物であるならば、ロボットはディバイダーだ。
少女には教えなかったが、人類の敵となった人物だ。
「ディーバ、彼はディバイダーなのか？」
　情報の検索を止め、二人の会話に割り込んだ。
「特に干渉もなさそうですし、正体を教えても
問題はないですね」
　少女はロボットを見上げ、ロボットが頷く。
少女は俺の方に向いた。
「そう。彼が私を助けてくれたディバイダーです」
　少女はにこやかな表情で答える。
　ディバイダーを敵と知らずに俺を救い、今も
少女は敵だと知らない。