全くもって、自惚れていたのだろう。
　仕方がないと言えば仕方がない。幼少期から、どこへ行ってもカルパンティエ家の跡継ぎとして扱われていた。周囲の人間が自分を見る目は、総じてそういうものだと思っていた。
　にしても、だ。

「まさか気づかれないとはなぁ」

　彼女――エメ・デュギーは、俺がカルパンティエ商会長の息子であるどころか、平須支部長であることすら気づいていない。この金庄に到着した今に至っても。
　面白くなって途中から猫を被り出したのも原因だが、それは置いておいて。

「後輩って言うのも、悪くない響きだな」

　職場でこんなフランクに接されたことはない。しかも、年下に。
　新鮮な体験だが、心地が悪いわけではなかった。……戦闘で先に倒れても心配しれくれないのはどうかと思うが、それ以外の彼女は、張り切って”先輩”をしてくれているように見受けられた。
　面倒見も良いし、後輩を付けた方が伸びるタイプだな。今後の人員配置の参考にしよう。

「先輩、そろそろ首都に向かいましょうか」

　白々しく、彼女を呼ぶ。
　実際、この平須支部で、俺はエメ・デュギーの後輩だ。嘘ではない。
　どうせいつかはバレる。
　その時まで、後輩ごっこに興じるくらい問題ないだろう。