「このたび平須支部を任されました、シーニュ・カルパンティエです。
　ご存知の通り、会長の息子です。が、何か意見があればどうぞ遠慮なく仰ってください。
　ここでは私が皆さんの後輩になるわけですから、むしろ私の方が学ばせていただくことが多いと思っております。
　平須支部を盛り立てていくため、力を貸してください。どうぞよろしく」

　拍手。のち、解散。
　挨拶は短いに越したことはない。時間は有限だ。
　朝礼での社員の反応を見るに、歓迎されていないわけではないらしい。ひとまず、平須支部着任の最初の仕事を終え、支部内を案内してもらうことになった――と言っても小さな支部だから、これもそう時間のかかることではないのだが。
　俺がここに来るまで、支部を取り仕切っていたチーフに、歩きながら声をかける。

「そういえば、出張している社員は3名と聞いています。ですが、朝礼には4名いませんでした。エメ・デュギーでしたか」
「デュギーは……寝坊ですね。もう出勤しているみたいえすが、言っておきます。申し訳ない」
「誰でも調子が悪い日の一つや二つありますよ。別に遅刻常習犯というわけではないのでしょう」
「ええ、普通に真面目にやってますよ」
「でしたら、私が来る日だったことは加味しなくて結構ですので。普通の対応をしてあげてください」

　エメ・デュギー。
　新支部長着任挨拶の朝礼に遅れてきた女。
　それだけの印象だった。

「あー、あなたが今度入ってきた後輩ですね？　エメ・デュギーです、よろしく」

　と、実際、彼女に会うまでは。