「そういえばねえ、今度新しい人が来るよう。」
倉庫番のじいさまから話しかけてくるのは在庫がないとき、天気の話、猫とバトった話ぐらいなので、思わずへえ！って聞き返す。耳が遠い人だし、話題がどれだったとしてもおかしくはないのだ。へえ！ 新しい人が！！

「ここ1年は誰も来なかったのにーです?」
「うんうん」
「椅子6脚ちょうどしかないんですけど、仕入れた方がいいですねえ」
「要らないと思うよぉ、入れ替わりでまろ君が出ていくからねえ」
来ない人が代わりに出ていっても椅子の在庫は増えないんですよ、と口に出かけたものの、今日のじいさまの話はいろいろ聞き逃せない。
「よし、あいつ嫌いなんですよね。魔界にでもどこにでも出てけグッバァイ」
私は両手でサムズアップ。
「君だいぶ思ったことが口に出る方だねえ〜。」
じいさまは両手で箒を動かす。もうちょっと喜びを表現してもいいんですよ。

「耀華帝国の本国に戻るだけだよ、商売やる条件として、お偉いさんの箔付け兼貿易許可証代わりに支部長やってもらってただけだからねえ」
「あ、そうなんですか。道理でみんな好き放題やってると思いました」
副支部長はいない。特にまとまっていないので、小さい国のくせに支部の商人全員が揃うことはあんまりない。
「は、代わりに来るのはまろ2号とかライトレレトネとか」
「大陸の方の男の子だったはずさね」
おっさんやじいさまではない。つまり後輩!

「いいですねー後輩、こんなとこに島流しされるのはかわいそうでっすが! 」
「荒廃ってえほど荒れてないとおもうけどねえ」
「まあ魔物は少ないからどうにかなるでしょうけど、箸とかおにぎりとか筆とか分かんないでしょうね」
「んまあ最初は誰かついた方がいい……かもねえ」
びみょうな顔をするじいさま。まあじいさまの体力じゃ大変ですから、気乗りしないのもわかります。
「いまひと段落してるんで私がつきますよー。今のうちから素晴らしさを教え込んで、ゆくゆくは下僕1号にしてあげます」
「急にやる気出したね」
んま、そういうことなら、みんなには言っておくよう、とじいさまは虫除けを請け負ってくれた。
良かった、全員となんだかんだ顔を合わせる機会は、倉庫番のじいさまが一番多いので、ボケさえしなければ争奪戦には勝ったでしょう。

「んじゃ配達と仕入れ行ってきまーす」