拝啓　旦那様と奥様　そして執事長様

この手紙が届いた翌日、お嬢様と共にお屋敷へ帰るかと思いますので先んじてご連絡を。
到着は正午過ぎを予定しております。お嬢様の御昼食の準備の程を宜しくお願い申し上げます。

文字を書くのは不慣れなので、この辺りで筆を置こうと思いましたがお嬢様がもっと何か書けと煩……
お嬢様からの進言を承りましたので続けさせて頂きます。

思えば私は物心ついた頃から戦場にて相手の命を奪うことを生業としておりました。
いえ、生業と言うほどの物では御座いません。そうしなければ明日の我が身が確かでなかったのです。
人の命を多い日には両手の指では足りない程奪い、またその倍以上自らの命を失いかけました。
そんな生活でしたので、本来子供が関心を示すことはおろか、自分が生きる事にもあまり思い入る事は無かったように思います。
殺して、生きられなければ、死ぬだけ。ただ、本当にそれだけの日々を繰り返しておりました。

そんな生活のある日、旦那様方がお見えになられました。
まだ幼いお嬢様を連れ、紛争地帯のど真ん中にやって来るとは正気の沙汰とは思えませんでしたし、今でも度々思います。
ですが、あの日、確かにあなた方は僕の前に現れました。そして、僕の生活を変えてしまいました。

読み書きも出来ない僕が、歳が近いからという理由だけでお嬢様の身辺警護に充てられ、たった一日過ごしお嬢様にいたく気に入られた。
たったそれだけの切っ掛けで、硝煙と血と死に塗れた世界から引きずり出されてしまいました。

その後のお屋敷での生活は、戦場とはまた異なる地獄の様相を呈していました。
ですが……ですが、そんな日々が、僕は嫌いではありませんでした。


そして今、再びお嬢様の身辺警護として見聞の旅に同行し、生まれ育った戦場の匂いを時折思い出していました。
あの頃と違うのは、僕は死ぬのが恐ろしいという事。
僕が死ぬ事は勿論のこと、それ以上に、お嬢様に何かあったらと思うと堪らなく恐ろしく感じます。
初めて会った日から、言動は何も変わらぬお嬢様ですが。その時はどうとも思わなかったその命が、今はとてもかけがえのないものの様に思えます。

同時に、お嬢様を背に戦う時は力が普段よりも漲る様に思いました。
幾度となく僕の力不足で危険な目に遭わせてしまう事もありましたが、それでも、やはり、お嬢様を守る為に戦う事に僕は意義を見出していたのかもし.