2回の記録
「早々に死ぬような弱小じゃないことを願うよ、か」
少年はルマの町を歩いている時に出会った兵士の言葉を思い出していた。そして、
「もう死んでるんだけどねーーっ!!」
アホみたいなことを叫んだ。頭についている輪っかを触りながら、「どうして羽じゃなくて輪っかだけついてるんだろう、どうせなら羽が欲しかった。かっこいいし……飛べそうだし」などとブツブツ言っている。この少年は確かに12歳で死んでいて、何か未練があってこの地に残っているのである。それは少年も分かっていた。だがどうやら部分的に記憶喪失になっているようで、どこにどういう理由でこの地に残っているのか、それが分からなかった。
考えても仕方ないことは、行動に移すしかない。彼はとりあえずこのトスナ大陸をめぐり、あわよくば成仏しようと考えていた。そのために二度目の死を迎えないようこのルマの港町で旅の準備をしている。
少年が路地に入ろうとしたところで、ドサッ!という音が耳に響いた。近くに何かが落ちたようである。音の方へ振り返ると、どこからか現れた桃色の髪をした少女が尻餅をついているのが見える。
「……ねーちゃんどっから現れた!? ていうか大丈夫か、凄い…音がしたけど? 立てるか? こういうときは名乗っておいたほうがいい? おれはデュオ。デュオ・リストっていうんだけど。ねーちゃんはどっからきたんだ?」
少年は少女に近づくと、手を差し出して引っ張りあげた。
その後、少女がカリン・トウドウという名前をしていること、突然この世界に飛ばされてしまったこと、お互い迷子のようなものだということ(これを言うと否定されそうなので、少年は口には出さなかった)など、互いの情報を交換した。
少年はカリンと名乗った少女を改めて観察した。若い女の子だ。持ち物も少なく、この大陸での知識も全くないということでは、言葉が通じてもとても1人で旅をしていけるようには見えないな、と感じた。
そうして、思いついたように顔をあげて言った。
「ふーん、まあ、おれは一応この世界出身だからな! 記憶が抜け落ちちゃってるから案内はあんまりできないけど、なんもわかんないよりマシでしょ! 一緒に来る?」
少女は少し考え込んでいるようであったが、少年の言葉に乗ってついていくことにしたようだ。
こうして、少しアンバランスにも見える二人組の旅が始まったのだった。