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Diary | ||
ただ一人、教会の中で椅子に座り、床に落ちたステンドグラスの光をぼんやりと眺めていた。 王様を送り出してから、間もないというのに、既に長い事この場に留まっているかのように思えた。 これで、仮面舞踏会は終わったのだと、ようやくその仮面を手に取り外し、膝の上に置いた。 実際の物よりも重量があるように感じられた。 「…………。」 『アリス…それは……』 驚いて己の顔を見た最後の彼の顔がずっと脳内で繰り返し映されている。 その大きな手の感触も、低くも穏やかな声も、鮮やかな青い瞳も全てが届きそうな距離に感じられるのに、先程まで居た場所には彼は居ない。 握り締めた手の温もりは、既に己の冷えたものに戻ってしまっていた。 「王様……。」 瞬きもせずに床を見つめている。 「ねぇ、王様。……呼んで、私の名前、呼んでよ……。」 己の声だけが、虚しく小さく木霊した。 その瞬間、瞳から大粒の涙が零れた。 「うっ……。」 喉の奥が熱い。色々な物を堪え過ぎて大きな何かがつっかえているように痛い。 一度零れ出した物は止まらなかった。 「嫌だ……嫌だよ………王様…………子供の頃のように泣くなって…言ってよ………!」 手に持っていた仮面は床に放り出され、アリスはその場で両手を顔に押し当て蹲って泣いた。 床に落ちた仮面にステンドグラスの波打つ光が、アリスの揺れる心を映しているようだった。 「こんなに……好きなの…………王様……!」 もう一度あの手に触れたい、あの声もあの瞳も、遠ざける事など出来る筈もなかった。 唇を噛んで溢れ出る感情を堪えようとした。 感情の変わりに己の鋭い牙は柔らかい唇に傷をつけ、僅かに鮮血が漏れた。 その血を己の指で拭い見た。 『アリス、私達ヴァンパイアは人間を愛してはいけないの。いいわね。』 自分に語った母親の声が脳内に響く。 「それでも………愛してしまったらどうすればいいの………ヴァンパイアになんて…生まれなきゃよかったのに……!!」 己の出生を憎む心と、それでも愛する者を失いたくない思いが交錯したまま、アリスはその場で崩れたまま泣いた。 暫く泣いた後、ある程度の落ち着きを取り戻したアリスが、床に落ちた仮面に手をかけた瞬間、人の気配がした。 「この気配は………そんな………どうして………!?」 間違いない。今まさにアリスが想っていた男の気配である。 記憶は消した筈だった、男が此処を訪れる筈がないと思いながらもアリスは咄嗟にその身を霧に変え、姿を消した。 次の瞬間、大きな音を立てて教会の扉が開けられたかと思うと、黒い正装に身を包んだ男が大股で中へ歩み進んできた。 「アリス!……これ、アリス!何処に隠れた、出て参れ、アリス!」 仮面と帽子を毟り取るように外したその表情には怒りと焦りの表情が混ざっている。 普段は飄々と、落ち着いている様子の彼が見せる初めての表情だった。 思わぬ状況に混乱を隠せなかった。 何故記憶を取り戻してしまったのか、そして、何よりも王様が自分の名を呼んでいる事に。 その様子を放心したまま眺めていた、驚きのあまりに身動きが取れない。 やがて、いつもの不自然な程に明るい青い瞳ははっきりとアリスの姿を捉えたようだった。 霧に化けていた筈のアリスの姿を。 そのまま自分の方へと歩み寄り、腕を掴んだ男は、数度、己を「莫迦者」と叱咤した。 そして、 「我と来い。 我が汝を光の中に連れて行く。 我のものになれ、アリス。」 …と己に告げた。 (E52へのメッセ欄へ) |
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