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「キミは、今何を考えているのかな……? ちょっとだけ今の気持ちを知りたくなってきたわ」 やわらかい メゾソプラノが おりてくる。 おかぁさん は そういうと 小さな何かを取り出して じゃくろ の まえに ならべている。 ならべられたのは 鳥の尾羽 と 小さな インク。 そして おかぁさんの膝の上に 白い紙。 やわらかくて 温かい熱が 傍に在って 方舟の灯火の様な、紅い瞳が覗きこんでくる。 うんしょ、うんしょ。 ――よいしょっ! 腕の中から 抜け出して くろいあくまの両の手で 羽根を担ぐようにもちかかえて えっちら おっちら よたよたと 白い紙 に かいていく。 【≪考えて いた こと≫】 【おかぁさんが いろいろ あったように じゃくろも この 魔界で いろいろ あった】 【そして そのうちに “もとのせかい”に 帰るのだろう 考えた】 【でも じゃくろは“もとのせかい”に 今は 帰りたくは ない】 【じゃくろが“もとのせかい”に帰る ということは “もとのせかい” に あってしまう】 …… ………… …………えーっと ぱたり 尾羽が とまる。 白い紙にかいていった 文章が とまって しまう。 低い声の言っていたことが じゃくろ には よく 判らない。 じゃくろの なにかが いいたかったこと が 判らない。 じゃくろには どう表現していいか 判らない。 うーん、うーん 鳥の尾羽を抱え込んで 。 どうしていいか うんうん なやむ。 すると 横でゴリゴリと 音が なりだす。 【自分は 元の世界――現世に 帰りたいとは思わない】 みると おかぁさんが命を込めた黒い槍 くろのししゃ それが 暗くて冷たい魔界の地べた に がりがり と 描きだして いた。 【自分は 死者。 あのメガネの女と同じよう、自分は 既に死んでいて身体はない。 メガネ女との違いは ・自分の現世での役割は終わっていて、戻る理由と居場所はないこと ・自分はその役割以外ではもはや現世にあるべきではない ――俗に言う“クズヤロウ”であること】 見たことがあるようなないような、そんな筆記。 おせじにもうまくない、いびつなアルファベットが地面につづられて いく。 【自分は既に終わった存在、それらが混ざった云わば“星屑” 混沌としたそれらの中で 利用できそうな残滓の多めに集まるところを見つくろってひと掬い 掬いあげて、魔界で利用しているに過ぎない】 へえ……そうなんだ。 たしかにじゃくろも“英雄の力”りようしてるし ね? そう思うと、槍がぴた。 書くのをやめて 止まってしまった。 あれ? 機嫌 わるくしたのかな? ――別に? ――どんなもんも利用して利用される、そんなもんだろう? ――使えると見たらな使やイイ ――相手がどうとか後悔するとか、ンなもんは関係ネェ。 ……? えーっと そういうわけじゃない。 そういいたいのかな? こたえ の かわり に とまった槍は また地べた に ごりごり つづりはじめる。 【自分は “輪廻”という概念は お伽話位にしか知らないし信じてはいない。 だが、万一に 自分が 輪廻――生まれ変わる――というのであるのならば】 あ、そうか。 “輪廻する”って、うまれかわる、ってことなんだ。 ここからなら じゃくろ も かけるぞ。 かりかり、かりかり。 白い紙に じゃくろは 尾羽で 書いていく。 【銀色はね いったんだ。 じゃくろの“したい” 現実に するには 魔石はぜんぜん 足りないって。 もっとたくさんの 魔石も ちからも ひつようだ って】 ごりごり、ごりごり。 暗い地べたに くろのししゃが 描いていく。 【具体的に“何か”を伝え起こすのは、やめておく。 星屑が抱える残滓にも 小さな望みはある程度に受け取ってくれれば良い。 そして それが今は現実とはなりえないなら 叶えることは可能でも、その為の布石が足りないなら 別に今すぐ現世に回帰して、どうこうしようなどとは思わない】 暗い地べたに黒い槍 それにつづられていく文は しっかりしてるけど いびつな 文字。 白い紙に鳥の羽 それにつづられていく文は よたよたした ふあんていな 文字 白と黒、空と大地、天使と悪魔 相反する 2つ の もの で つくら れた 2つの 文章 その さいご の だんらく それは 表現 は ちがうけれど 同じきもち が かかれてた。 【今 もとのせかいに 帰っても “したい” 叶えられない。 じゃくろは ね ここにのこるよ】 【自分は 戻らず ここに在る。 いつか 願いを叶える その日まで 虎視眈々と ここに在る】 じゃくろの けつい かかれてた |
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