「…ネル?」
ふと振り返るとネルがいない。
召喚のためのひどく大掛かりな魔方陣を抜けようと二人で旅立った矢先の出来事だった。
ネルは僕よりもずいぶんしっかりものだから、そのあたりで何かに気を取られてしまう、なんていう子供じみたことをするとは思えない。
戻ろうかな、とは思ったのだけれどすでに異界の神殿を超えていた。
戦場アナの声がする。
彼女たちはおおむね絶対だ。
ネルを探しに行くのは戦いが終わった後になるだろう。
***
そして、僕はその戦いで倒れた。
ついでに戦い自体にも負けた。
戦力差というか、人数差というか。
かろうじて敵を追い払うことには成功したのだと、後で同じ戦いに参加していたものに告げられた。
彼らもまた召喚士に呼ばれたという話だった。
***
重い足を引きずりながら来た道を戻る。
ネルが魔方陣の端っこで心配そうに眉根を寄せた顔をしながらたっていた。
「ただいま」
「……」
憮然とした顔で見られた。
全身ぼろぼろだから仕方ない。
ネルの手が僕の傷に触れる。
白くて綺麗なその手に、ああ、今日は無事だった。と安堵した。
「……フェイト。
どこかに行くのはいいけど、どこにいくか言って。」
「……あ。」
そして僕はそのときになって、ネルに行き先を言い忘れたことに気がついた。