街の喧騒からは程遠い、穏やかな風が通り過ぎる草原にオレ様達は立っている。
一揆はどっかの誰かがケリを付けたみてえで、オレ様達もその巻き添えを食うように手荒い歓迎を受ける日々が続いた。
アニマの言っている『色々』ってのはまあそういう意味もあるんだろうし、それよりちょっと前のあの辺の事も指してんだろう。
案の定、横顔を見やると薄らと笑みを浮かべてはいるもののちょっとバツが悪そうな風にも見える。

一人で抱え込む癖も、一人で勝手に決断するその身勝手さも、全部面倒くせぇ。
賢いように見えてオレ様よりバカなんじゃねえのかってたまに思う。
まあ、こんなヤツを野放しにしていたら確実に研究所のヤツらに殺されるのがオチだから、オレ様がこれからも面倒見てやるしかねえんだが。

異世界からの来訪者……って呼べるのか知らんが、そいつらに協力してもらってオレ様達はお互いに重たい荷物を降ろせた。
虚勢を張ったこいつもそれはそれで見物ではあったが、あんな顔をさせるのは一度だけでいい。
ンな顔見るよりオレ様が恐怖で歪ませた顔を眺める方がよっぽど愉快だってもんだ。

この島に来た時と変わらないやり取り。
あれだけお互い死闘を繰り広げてこんな軽口が叩けるんなら上々だろう。

こいつの力は、ノールのエンブリオを乗っ取って得た仮初の力だ。
島を離れる今、いつまでも偽物の力に頼っているわけにゃいかねえ。
何より、乗っ取られたノールの身体も返してやらねえといけねえしな。

アニマの持つ魔本から天を突かんばかりの光柱が立ち上った。
直視出来ない程の光量が目に飛び込んできたが、不思議とオレ様は目を逸らす事が出来なかった。
その口は何やらぶつぶつと呟いている。
本が発する甲高い音の波に掻き消されて聞こえないが、聞こえてもそれはオレ様にとっては意味を成さない言語なんだろう。
光は渦を巻いて、アニマの身体に纏わりついていき、徐々に身体の輪郭が薄れ始めている。
手の平が、腕が、肩が、次々と粒子となって光に混ざっていく。
常に手にしていた魔本は地面に落ちてもなお魔術の実行者の指令を受けて輝きを止めない。
この二か月間、共に歩んできたヤツが目の前で消失していく感覚は、無事に済むと分かっていてもどこか抑えきれない感情が湧いてくる。
物言わぬ深紅の瞳が飲み込まれていくその時―――

オレ様は無意識に何かを叫び、光を捕えようと伸ばした前足は虚空を掻いた。
次の瞬間、アニマと一体となった光の欠片達は激しく明滅を繰り返し、辺り一帯を白く塗りつぶした。
魔法の白光の本流を浴び、オレ様の意識はそこで途絶えた。

（カルは銃を構え、ルリアンナを見据えている…
この勝負の行方は…？）