『目星がついている』と言うハーヴェイの言葉はハッタリでも何でも無く、数日後にはこの世界からの転移術式が完成したと言い出した。
呆れた様な顔を向けてくるルークに、それを楽しそうに眺めているカルメ。反応はそれぞれではあったが、異世界からの脱出が叶うとあって少なからず安堵の気持ちがあったのは無理からぬ事だっただろう。

「俺はこの世界での目的はほぼ達せられたが……お前達ももういいか？」

数本のネクターが封印された瓶を手の上で弄びながら、ハーヴェイが訊ねる。
彼の興味対象であったこの世界特有の存在――“ネクター”と“エンブリオ”――は既に、彼の手中にあった。それらが彼の言う最終目的にどう役に立つかは定かではないが、少なくともこの世界でやれることはもうほとんど無いという事なのだろう。

仲間たちが異論を示さない事を確認したハーヴェイはポケットにネクター入りの瓶を仕舞い、代わりに掌に納まるサイズの羅針盤を取り出した。そして躊躇うことなく魔力を流し込み、内蔵された術式を起動した。足元に記号と難解な文字群で構成された複雑な魔方陣が展開し、そこから湧き出た光の渦が寡黙な放浪者達を飲み込んでいく。

「それじゃ、帰るとするか。あの、陰鬱な世界に」

その言葉が大気に溶け光の奔流が治まると、彼らの姿は既にそこにない。

こうして、今回の一揆騒動に自らの意思に関係なく巻き込まれた寡黙な放浪者達は、自らの意思によってその幕を下ろしたのだった。