頭の中の靄が一気に晴れたかのように己の記憶がよみがえる。

自分が何処で生まれ育ち、どういう人生を歩んで来たのか。
今まで思い出す事もなかった記憶が一気に頭の中へと流れ込んだ。

俺の本当の名は【アルカトゥラス・クサナギ・ヴェーゼンドルファ】
母、ヒルディアスが実の父ラセツと禁忌を犯して生まれたのが俺だ。
その業を背負ったからか、俺は人外の力を食う者となった。
好きになるのは人外の異性、そして愛した相手の力と命を俺は食ってしまうのだ。

だから死ねない。
異性を好きになる事も出来なかった。好きになり、二世を誓えばその時に俺は相手の命を食ってしまうのだから。
そうしてあちこち彷徨い歩き、マナという力に触れた時に獅子神アルシンハに拾われた。

そして俺の祖母にあたるロザリントが己の魔力を対価に忌まわしい運命から娘を守る方法を探していると聞かされ、
その道筋により自分が消えるかも知れないと知った。
それでも良かった。俺は死ねないままずっと生きて来たから。死んでサンサーラの輪に戻れるなら本望だった。


だがどうだろう。
思っていた以上に運命ってヤツはへんな方向に走ってしまうモンだ。
ロザリントが本懐を遂げ、ヒルディアスが別の人生を歩む事になったにも関わらず俺は何一つ変わらなかった。
アルシンハが仮に与えてくれた今の姿が俺の本当の姿となった。
内に流れるクサナギの血と最初に食った山神の命が俺を生かし、それを基として新たに得たのはクサナギ直系の力と
黒い虎神の力。笑うしかねぇ。
どこまでもクサナギの力とやらがつきまとうんだからな。

アルシンハも最初は呆れ顔だったが、何処か嬉しそうな顔をしてやがった。
退屈しのぎに丁度いいと思われたのかも知れない。


しかし、ヒルディアスの心を多少なりとも動かして救ってくれたのが、あの鉄面皮のグレイナード・F・ノイエンだったとはな。
まぁクソ真面目で悪いヤツじゃないし、俺も嫌いじゃあない。

何にしてもヤツには感謝しなくてはならない。



最後の最後にヒルディアスが、母さんが己の父親ではなく別の異性を愛する事が出来た事に。




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自分の側にいるユニコーンを見てルプスは呟く。

「そいつの中に居て俺の事ずっと監視してただろ？
　アルシンハのおっさんよぅ…ったく過保護というか心配性というか。物好きな神様だな」

呆れた顔をしてルプスはユニコーンをじっと見つめている。
「バレバレじゃったか？
　ふん、さすがに山神の力を食っただけの事はあるの」

ユニコーンはぶひひと笑うようにいななき、ルプスの言葉に答えた。

「ロザリントが新たな道を見つけ出してお前とヒルダの縁は新たに組み直される事となった。
　お前も別物に変わるかと思うたが…」
「残念ながらそのせいで今までの事全部思い出したというか」

ルプスはため息まじりにそう言うとユニコーンの側に腰を下ろした。

「ほぅ、ではお前さんはまだクサナギの一族であると言う事か？」
「そうみたいだな。
　ただ母親がヒルディアスでもロザリントでもないみたいだ。
　何にしてもクサナギの血を引く駒はアンタにとっても必要なんだろ？」

ちらとユニコーンの顔を見てルブスは言葉を続ける。

「父親も…違うのかも知れん。クサナギの一族に連なる者はラセツだけじゃないだろ？」
「ふむ、しかしゴーシュでもラセツでもないとしたら…」
「シュラ・クサナギの直系ならもう１つの血筋があるだろう？
　俺のこの赤い髪もそっち系統譲りじゃないかってな」

ユニコーンは首を傾げて暫く考え込んでいたが、納得したかの様に首を一振りする。

「…黒き風・虎神の血統か。なるほど、神族の血統にシフトしたとなるとそりゃ儂の予想外じゃ」
「ヒルディアスの業を彼女１人に負わせるのは酷な話だ。
　ならば息子であった俺も罪を償いたい…駄目か？」
「こりゃまた難儀な事を言い出しおる。
　そういう無茶振りをするのはシュラに似たのかのぅ？」
「かも知れネェし、バルフォルト爺さんの血筋かも知れんぜ？」
「何にしても俺はもうサンサーラの輪には戻れねぇんだろ？
　ならアンタの駒として世界を渡り、世の綻びを探しそれを正す者となろう。
　未来永劫共に歩む伴侶を得る事の出来ぬ孤独な道を、ただただ歩こう」

「それがヒルディアスの罪を償う道ならば！」

そう言ったルプスの顔に迷いは見えない。

「クサナギの一族は強情なヤツが多いのぅ。
　まぁええ。それがなるべくしてなった道ならば…」

ユニコーンはふんふんと首を振り、一鳴きする。
ルプスは立ち上がり、尻についた草を両手で払うと空を仰ぎ見た後、ユニコーンの方へと手を差し出した。

赤い髪の男とユニコーンは共に歩みだす。


次の世界へと飛ぶ為に。

何かの問題が解決したのだろう。
少女の顔には年相応の笑顔が浮かんでいた。

満の影が動き出す