俺が執着していたことは、みっつあった




ひとつめは生きること　　　　　　　




ふたつめは残すこと





そうして、みっつめは　きっと





──お前だった















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※以下日記は 67日目、68日目/ENo.333 カミユ・ナダ受信・送信メッセの流れから繋がっています。




「……っぅ」

音楽が響く。光に貫かれた男は、数歩記憶を頼りに前に進み出た。


眩む。


現実の光から目を逸らした盲いた目にさえ、音が光として見えた気がした。

「……っ、は……」

一度は不可分に重なった存在が、身の内を走る血管ごとびりびりと引きはがさされていく。

厚紙を二枚に割くような感覚があって、それから何を忘れてしまったかも知覚できないままに、
長く、長く連れ添った影は、輝きの内に掻き消えた。

「…、…」

胎に手を当てて内側に耳を澄ませども、"殺してくれ"と最期まで喚いていた悪魔の声は、
もはやそのかけらも聞こえなくなっていた。

「……ああ」

歎息じみた音のみが、骨を伝ってか僅かに聞こえた。死にたがりの悪魔を無理やり現世に引き止めた代償か、手の感覚も、目も、恐らくは味覚も、どうやら綺麗さっぱり元に戻るとはいかないようだった。

「本当に、人間って奴は、
　何をしたって、失うばっかりだな」

確かに此処にあったものが、今はもういないということだけがわかる。

「……　…」

病状の進行は止まるだろう。

"悪魔"は討たれた。

「これで、かつての聖人の遺した影は全て、光に灼かれて消えた」

万病を呑みこんだ病喰らいの悪魔。
夕焼けの黄金に暮らした聖人が、友と呼んだもの。

すっかり狂いきった死にたがりの病魔。

「…………」

日記はどこへやっただろう。もはや凝らしても何が見えるわけでもない目が、
遺された身体感覚のみにつられて眇められる。
このザマでは探すのも手間だなと、そんな思考がよぎった。

資料の中に埋もれてしまった何一つ役に立つことは書かれてはいなかった
あの、謝罪の言葉で締めくくられていた終わりの頁。





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"私の友達。我侭ばかりの私の願いをいくつも叶えてくれた、私の悪魔"


"なのに、貴方の願いだけを、私は最期まで叶えられなくて、"