何処かからシタールの奏でる音楽が聴こえる。

知らない曲なのに何処か懐かしく聴こえてならない。
何処かで聴いた事があったのだろうか？
意識は微睡み、なんだか夢心地。
ふわふわとした感覚が付きまといどうにも思考が纏まらない。

自分が変わってしまうかもしれないのに、何だろうな。
怖いとは思えない。
前にもこんな事があったような気がする。

何時？
何処で？


まぁいい。
抗えないのは多分あの爺さんの策だからだろう。
ああ見えても神族の１人だ。
俺のような人間が敵う筈もない…。

それに、あの爺さんはとても俺に優しい（ような気がする）
だから悪い方向に行く事はなさそうだ。


＋＋＋＋＋＋＋＋＋

ああ、意識が上手く保てない。
何が起きているの？


私が私じゃなくなっていく感覚。
何が…


＋＋＋＋＋＋＋＋＋

「すまぬのぅ　ヒルディアス。
　そなたの業はあまりにも大きすぎてそのままでは色々厄介なんじゃよ」

シタールを奏でる手を止めて髭を蓄えた爺がふと言葉を漏らす。

「そなたの母が持っていた強大な魔力を対価にして別の道筋を探し当てたのでな…
　そなたは新しい人生と名前を得る事になろう」

小さな獣はその言葉を聞いて小さく哭いた。

「安心せい。ルプス…いや、アルカトゥラスとお前の縁が消え失せる訳ではない。
　血縁ではない新たな縁を。このアルシンハが約してやろう」

「…どのような縁になるかまでは儂にも計り知れぬが、遠き時の流れの中でルプスとお前は出会う事となる」


アルシンハの言葉を聞いた小さな獣はくつくつと喉を鳴らす。


「さて、その前にお前さんには一働きしてもらわねばの。
　ヒルディアス。そなたの業を洗い流す為に」


そういってアルシンハはシタールの弦を弾き。唄を唄う。
竜に連なる一族の歌。
白き面の狐と縁を作ってしまった一族の為の歌。