SIDE*フィー

気がつくと、何時もの魔女服を着て白い霧に包まれた駅のホームに立っていた。
何を言ってるかわからないかもしれないが、私もちょっと今の状況がわからない。

「…何処かしら、ここは。」

そこが駅のホームであることはわかる。
ただ、周りが真っ白な霧に覆われて、一向に晴れる気配が無い。
汽車が来る気配も無い。
どうすればいいか、途方にくれて溜息をついていると。
ふと、後ろから声をかけられた。

「ごきげんよう。」

そこには、白いドレスを身に纏って優雅に微笑むオリフィアさんが立っていた。

ますますどういう状況かわからない。

「そう、身構えないでください。私はもう何もできませんから。」

どうやら、魔王とかそういう類のものではないらしい。
すっと、駅のホームのベンチに座るオリフィアさん。

どうですか？と隣を勧められたので、戸惑いながらも隣に座る。

「この駅に辿りつく前に、色々な記憶を見ました。…何度も何度も、私達は戦い続けて来た。」

オリフィアさんが言うには、誰かが結果を改変するしようと何度も過去に遡った結果、レイヤさんやサクラさん達と何度も戦い続けていたらしい。

だが、それでも、結果は変わらなかった。

魔王オリフィアの勝利。

「…けれど、私が望む結果も得られなかった。」

世界というのは、まるで樹の枝のように何本も、何百本も枝分かれしているらしい。
そして、その先に未来がある。
けれど、この世界の枝の先には何も無い、閉じられた世界。

それも、王国を取り戻そうと過去へ戻ろうとしたオリフィアさんやその過去を改変しようとした誰かの副作用。

「けれど、人が亡くなったのか・・・あるいは、別の要因なのか。この世界に新しい先が出来上がりました。」

そして、その結果、オリフィアさんは敗れた。

今までは確実な勝利を得ていたにもかかわらず、たった１度の敗北が全てを決めてしまった。

「多分、本当の意味でのイレギュラーはセツカさんではなく貴女だと思います。フィーさん…いえ、もう一人のオルタンシア。貴女がいなければ、セツカさんが私と互角に渡り合えることはなかった。」

つまり、全ての枝の中でもセツカが私を選び、私がセツカを選んだ世界…そして、二人のオルタンシアが交わる世界。

花と動物の物語が繋がる世界。

それこそが、唯一魔王オリフィアを倒せる世界…枝の先だったということらしい。

やだ、なにそれ照れる。

「そして、もう一つのイレギュラーはレイヤさんとサクラさんが強く結びついた事。…本来なら、もっと簡単に心を折れるはずだったんですけど…特にレイヤさんの。」

やはり、愛は勝つ…ということなのですかしら？とおかしそうに笑うオリフィアさん。

いや、なにそれ照れる。

「…とにかく、おめでとう。あなたたちの、勝ちです。」

そう、オリフィアさんが告げると同時に、汽車の汽笛の様な音が聞こえた。

「お迎えが来たようですわ」

すっと、オリフィアさんが立ちあがる。

「ああ、貴女は乗ってはいけませんよ？貴女のお迎えは、まだ先ですから。…私に勝ったご褒美です、とでもセツカさんにお伝えください。あと、レイヤさんにもオルタンシアの呪いは解けましたよ・・・と。」

禍々しい装飾を施された大きな汽車が二人の前に止まった。
そして、扉が自然に開き、そこへオリフィアさんが１歩進む。

「…願わくば、私の大事な家族を…よろしくお願いいたします。」

すっと綺麗な笑みを浮かべ、オリフィアさんは汽車の中へと消えて行った。

そして、全てが白い霧に包まれていく…私の意識もまた…。


SIDE*セツカ

さっきまでオリフィアの亡骸があったその場所に居たのは・・・紛れもなく、フィーだった。

ただし、服装は先ほどまでオリフィアが纏っていた服ではあるが。

「…フィー！フィー！？」

俺は、急いで駆け付けてフィーに呼び掛ける。
まさか俺はまた…

「…声が大きいわよ、セツカ。」

まるで、寝ていただけかのようにフィーが俺の腕の中で目を覚ます。

起きた彼女の瞳は…金色。

「ええと、フィー？オリフィアじゃなくてフィー…だよな？」

「オリフィアさんではなくて、私よ。正真正銘…何がどうなってこうなったのかはわからないけれど・・・褒美だって言ってたわよ？オリフィアさんが。」

・・・初めて、魔王でもオリフィアでもいい感謝しそうになった。

でも、今はただ・・・

「お帰り、フィー。」

「ただいま、セツカ。」

この再開を喜び会おう。