「で、もうすぐ目的地だけど、
　準備は大丈夫？」
「懐中電灯とお菓子、
　携帯が使えなくなるとかあった時のために、
　カメラと録音機もってきてあるよ。」
「こっちはまぁ、
　大したものはもってきてないなぁ。
　物理的な代物はいくつかあるけど、
　幽霊とか相手にこういうのが通用するとも思えねぇし。
　ああ。
　でも清めの塩はもってきてるよ。
　効果あるかまでは分かんないが……」
「それなりに効果はあると思いますよ？
　清められたものって、
　悪意あるものに悪影響をあたえる波動がでてますから。
　肉体がない存在相手だと、
　効果がダイレクトにでるので、
　そうですね。
　弱い相手なら大丈夫ですよ。」
「お、そっか。
　魅月からもらったお守りは、
　なんていうか……
　お墨付きだからいいけど、
　こればっかりは自分で用意したものだからな。
　魅月は……大して何ももってきてないな。」
「……言うまでも無く断言するなんて酷いわね？」
『だって……ねぇ？』
声をはもらせて顔を見合わせる三人。
酷い話だと思う。
なんで其処まで息が合うのか。
「でも、三人ともそんな事を言っていいのかしら？
　本当に私が何も持ってきていないと思って？」
「……あるんですか？」
「いや、ないだろ。
　というか、
　完全に私何ももってきてませんって感じだよ。」
「えっ……と、
　それ以前に何か必要だと思えないので……
　ご、ごめんね？」
「失敬ね。
　ちゃんと持ってきてるわよ。」
申し訳なさそうにしてるのは咲良さんだけで、
他の２人は疑わしげにしている。
全く。
ちゃんと持ってきてるわよ。
「はい。鏡。」
『……』
取り出したのは手鏡。
ちなみに見た感じは特別なものではなく、
手鏡が買える店ならどこにでもありそうな、
簡素なものである。
「……鏡って……必要なんですか？」
「えっと……？」
「……どう使うつもりなの？」
完全に困惑する三人。
いい反応である。
その反応がほしかったから満足して、
私は一つ頷きこたえることにした。
「幻覚とかの類の罠にはまった時に、
　割と打開策に鏡面の映像をみるとか、
　合わせ鏡関係の怪談というか、
　仕掛けには必需品なのよ。
　まぁ、態々呼び寄せる必要はないとは思うけど、
　試してみたいとかあればやっぱりあると便利でしょ？
　コンパクトでも問題ないとは思うのだけどね。
　――持ち手の底をひねってはずすと、
　銀の針が仕込まれてる特別製よ。
　まぁ、使う機会なんてないと思うけど、
　たまにいるのよね。
　銀でないと有効でない相手とか。
　大体そういう奴に無駄にしぶといから、
　あると楽なのよ。」
そんな私の言葉に、
成る程と納得する三人。
まぁ、銀でないと有効で無いといけない相手だなんて、
よっぽど力がある存在だし、
話が分かる事が多い為、
使う必要はないのだけど、
いざと言う時の護身として渡すのには最適だろう。
ちなみに、この無駄なギミックがついた手鏡であるが、
私が買ったものではなく、
昔にもらったもらい物である。
昔にもらったものにしては、
新品なように見えるのは、
たまに暇をみて手入れとか、
新調して貰っている感じ。
中々手厚い扱いをされている手鏡だが、
実の所私の愛用の鏡ではなく、
ジョークグッズとして作成されたものである。
とはいえ、鏡としては割と便利で、
綺麗にうつり、
更に銀の針についても、
存外以外な所で役に立つため、
ジョークグッズを作るつもりが、
便利な道具になったので、
愛用の鏡と同じくらい使うようになったという、
ありがたいような、
ありがたくないような、微妙な代物である。
有用性はあるんだけど……本当に。
「それにしても、
　いつもの赤黒い手鏡じゃないんだな？」
「――寧ろこの手鏡と対極にあるようなあの鏡もってたら、
　なんか余計なの引き付けるわよ？
　今回は純粋に肝試しを試したいもの、
　危険なものは身に着けないようにしてるわ。
　どうせ完全防備してもよってくるくらいなんだし。」
「こういう場合どういえばいいのかな、
　頼もしい事は頼もしいですけど、
　頼もしいは違うし、
　流石……？」
「流石でいいのではないでしょうか。
　他に形容する言葉も思いつきませんし、
　それより、
　早く行きましょうよ。
　私結構楽しみで！」
「なんで楽しみに……いや、いいんだけどね？
　それじゃあ、七不思議に関しても調べてあるので、
　一つ一つ廻ってみましょうか。」
まぁ、なんというか、咲良さんの手回しがぬかりなさすぎて、
本当に頼もしくなって困るのはいいとして、
真白さんは一体何故そんなにも張り切っているのか。
「幽霊が肝試しすると、
　どんな感じがするんでしょうか……」
呟きを拾ってみると好奇心らしい。
……なんていうか、
本当に好奇心旺盛よね。
真白さん。
「じゃ、懐中電灯もって先頭歩くわ。
　物理的な脅威があった時、
　一番対応できるの私だし。
　こういう人がいない所って、
　妙な連中がたむろってる事あるしな。
　魅月が一番後ろにいればなんとでもなるだろうし。
　霊的なアプローチがあっても、
　私達を見通してるのが魅月である以上な。
　魅月の場合、
　霊だろうが戦闘能力のある人間だろうと対処可能なのが強みだし。」
そして、行動力と、戦闘能力の高い睦美さん。
何だかんだでバランスとれてるわよね。
私達。
「じゃ、早速行きましょうか。
　先導お願いね。
　睦美さん。」
「任せとけって。
　ナビ任せたぞ。」
「はい、もちろん。
　何かあれば教えてくださいね？」
「もちろんです！
　大船に乗ったつもりでいてください！」
さ、肝試しをはじめましょうか。

「こう暗い学校って雰囲気でてますよね。
　すっごく不気味なんですけど……」
「ははは、確かに不気味だね。
　だけど、幽霊にいわれるっていうのも変な感じが。
　ま、頼もしいけどね。
　えーと。まずは？」
「まずは職員室ですね。
　これ、結構面白いですよ。
　夜の職員室の片隅にある、
　赤黒い小さな机のある辺りに行くと、
　不意に声が聞こえてくるそうです。
　なんでも悩める少年少女の相談に乗ってくれるとか。
　かつて熱心な仕事をしていた青年教師が、
　夜宿直をしていたら、
　学校の備品を盗もうとした奴を見つけて、
　なんとか追い払う事ができるも、
　重症、
　職員室の自分の机に突っ伏して死んだそうですが、
　その人の霊がでるとかなんとか。」
「で、その教師が、こちらね。」
咲良さんが説明してる間に、職員室といって咲良さんが見た方向から、
ふらりと現れた霊を指差す。
少しだけ力を注ぎ込んで見えるようにしてみると、
『……。』
三人とも絶句した。
まぁ、いきなりって思わないものね。
その様子をみて教師の霊は気まずそうに頭を一かきすると、
「廃校になって取り壊されるだけ、
　とはいえこんな夜更けに誰かきたら何者か見極めないと。
　教師ですし。
　と思って見にきたら……
　見える上に会話できて、
　それを見えない人に見せる事ができる人がいるとは……
　世界は広いですね。
　備品壊したりしないようにだけ気をつけてくださいね？
　そこまで強い人も危ないものももう残ってませんから。」
うん。
なんか物凄く人のよさそうな感じで、
悪意は感じられない。
「なぁ、魅月。」
「何かしら？」
「存外フレンドリーなのな。」
「そうね。ここにいるのは基本的にはそーじゃないかしら。
　後は消えていくだけとも思ってるけど。」
「ですね。
　割と良いのと悪いの極端な感じはありますよね。」
困惑してる睦美さんの質問に答えていると、
咲良さんは折角だから聞けることは聞いてしまおうと、
教師の霊に質問攻めをしていた。
なんだか教師の霊たじたじになってるが、仕方ないと思う。
「なんだか色々聞いてすみません。
　最後に一ついいでしょうか！」
「いえいえ、構いませんが……
　あー……
　うん。
　どうぞどうぞ。
　七不思議にまつわる事については、
　直接いった方が楽しそうなのでぼやかしましたが、
　おそらくまた別の話ですね？」
「はい。
　……なんでここ壊されなかったんです？」
「あー……ちょっと残った霊達で妨害したんですよね。
　この学校が無くなるのが嫌だったというのもありますが、
　それ以上に不発弾が……ちょっとその……
　残ってまして。
　爆発したら大惨事だなぁと。
　せめて、ほら。
　邪魔したら、不発弾がもし爆発しても、
　慎重になってるだろうし被害が少ないかなーと……
　まぁ、やりすぎてしまいまして。
　では、僕は職員室に戻りますね。
　何かあれば来てください。
　お答えする事ぐらいならできますから。」
そういって教師の霊はすぅっと消えた。
それにしても……
「なんていうか……その、すみません。」
「別に咲良さんのせいじゃないでしょう。
　危険は無い……とはいっても、
　完全に無いとは限らないもの。
　言ってたでしょ。
　そこまで強いのも危ないのも残ってないって。
　つまりは多少はあるって事よ。」
「ああ、成る程。
　気を引き締めて……で、職員室は飛ばして二つ目は？」
「二つ目は……理科教室。
　理科教室の薬品で顔を焼いた生徒が、
　それを苦にして首吊り自殺をしたっていう。
　その生徒の霊が出るらしいですよ。
　彼女の姿を見て醜いというと、吊られるとか……
　……どうなるんでしょうね？」
「ま、気をつけていきましょ。
　一応危険っぽい感じはあるわけだし。」
「そうですね。
　どんな人なのか気になりますし、いきましょう！」

「ところでさ、魅月。」
「……？
　どうしたのかしら？」
「なんか床がぎしぎしいってるんだけど。」
「腐敗してるところは踏まないようにね。」
「オッケー。
　しかし……
　ほんとはいってみると廃校なんだなって思うね。」
目的の場所にはなんなくつけそうだったが、
やっぱり廃校なんだなぁとしみじみ思った。
実際夜だと恐怖感は強いが……
流石に私と真白さんになれた二人にも、
あまり恐怖は感じていないようだ。
何事も無く到着して、
理科室の扉をあけて、
懐中電灯で部屋の中を照らす、すると……
『……！？！？』
私以外の三人が声にならない悲鳴をあげた。
なんで真白さんまで悲鳴を上げるのか。
まぁ、見た感じは割りとシュールだから仕方ないかもしれない。
首を吊ったやけただれた顔、
ギョロリと飛び出しそうな瞳がこちらを見ているのだもの。
ああ、でも……
「――満足した？」
「満足した。」
正直な話をすると、
口元が笑っている。
顔を正視できる人なんてめったにいないから分からないだろうけど、
確実にこの霊は楽しんでいたので、
声をかけると、
あーあ、ばれちゃったかーと頭をかいて、
首吊りの紐をけしてあるいてくる。
「え、ええー！？」
「ちょ、なんでそんなに普通に対応してるの！？」
「あ、あれぇ。
　顔も普通の顔になってません？」
しかも近づく時にかるく頭をふるうと、
焼け爛れた顔が、
本来の顔であろう顔へと戻る。
「ええーじゃないわよ。
　貴方も出来るでしょうに。」
「あっ。ご、ごめんなさい。
　ついびっくりして……！」
「幽霊驚かせた幽霊かー……
　なんていうか成仏前に良い冥土の土産話が出来た気がする。」
「ふっつーに会話に入ってくんのな。」
恐怖が一転、完全に和気藹々としたムードになる。
「もう最近あんまり人こないしさー。
　一瞬驚かすくらいが関の山だし。
　成仏したくても自縛霊だから、
　もっと力弱くならないと出来ないのよー。
　こうして会話出来るチャンスなんて貴重だし、
　それでもあんまり長くは楽しめないから楽しまないと。」
「思いっきりフランクだね……
　あ、そういえば七不思議なんだけど……」
「あー。うん。
　恨みとかそういったのは当人にかえしたから、
　もう残って無いよ。
　殺されるは多分うらみ返した時のじゃない？」
「蓋をあけてみればびっくりするほどシンプルな話だな。
　それで……
　こんなにフレンドリーなのか。」
「ま、気にせず他の人達で楽しんできなよーっていっても、
　私くらいにフレンドリーなのは教師のあいつと、
　後花子さんくらいだと思うけど。」
「花子さん定番ね。」
「定番だよね。」
「定番だな。」
「わー。そんなに定番なんだ。どおりで……
　いや見たほうが早いね。」
「じゃ、出会った記念に皆で記念撮影してお別れしましょうか。」
「ポラロイドカメラだからすぐに現像できるよ。
　あ、でも……」
ふわりと、カメラを浮かせる。
「大丈夫よ。なんとかなるわ。」
「なんでもありですね。魅月さん。」
そんな感じで記念撮影して、
私が写真を理科室の彼女に手渡して彼女と別れた。
どうやって話したかは企業秘密……かしらね。