ルグはその屋敷の中を歩きました。


　見慣れた玄関に、細長い深緑の帽子掛け。

　少し広いホールには厚い赤の絨毯と大理石の白い壁。

　金縁の入った柱から角のように金色の蝋燭立てが生えていて、

まだ生きていると言いたいように小さな橙色の炎が灯っています。



　彼は日記帳を探しました。

　懐かしい香りがする廊下は長く、少し埃の積もった扉の取っ手が不規則ながらにも並んでいます。

　均等に並べられた蝋燭は彼を見ているかのように思えました。

　階段を上り、さらに上、さらに奥を目指して歩けば、壁に食い込むように付けられた扉が目につきます。

　黒い縁に金で描かれた唐草模様が目立つ、擦りガラスの入った大きな扉。

　ルグはそこから右側に伸びた植物の集まりのような取っ手を、埃も気にせずに掴み、小さく下の方へ力をかけて回しました。



　開ければそこに広がるのは壁伝いに並ぶ本の群れ。

　窓の外には今でも秋の景色が広がっています。

　古書とその棚が隅々まで埋め尽くすように並ぶその部屋にも、小さな木の丸テーブルがありました。

　そこに古くなり、ぼろぼろになったものを無理やり読もうとしたのか、所々千切れたようにも見える小さな本がのっています。



　ルグはその本を手に取ろうと歩きはじめました。

　無数に伸びる触手が一本ずつ無くなって行くのを感じました。



　思えば長い旅路でした。

　幼いころに出会った少女と夢見た旅路でした。

　ルグがその本を手に取った時には、触手の代わりに見慣れた自分の腕が一つ、くっついていました。

　そうして、彼は現実に帰って来たのを感じました。