いつもと変わらないやりとり。
相手が受け止めることを信じ切ったキャッチボール。
投げて受けるそのタイミングすらも息のあったもの。

マリィゴールドは身代わりなんだから、いざとなったら真っ先に切り捨てると彼が言えば、
その時にはすでにわたしがもういなくなっているわね、と彼女は意地悪く笑う。

陽だまりと、遠い空。
灼けた煉瓦と、静かに輝く紅い石。
ぱっと散った光が目を引く。


指が這う。

「贈り物」を手放すようなことを、そうして簡単に口にした。
簡単な言葉は、だが、妬けんなぁ、という軽やかな言葉に対しては随分と重い。
彼女は続ける。

わたしは、知っているの。でも、意味、わからないわね。彼女はそう言って穏やかに笑った。
殺すという物騒な言葉とは裏腹に、その瞳に宿る光はごく静かに凪いでいる。
そして、意味がわからないと自分で言いながら、構わずに続けた。
それは波が寄せては引くような、リズム。たゆたう言葉。

意味、わからないわね。彼女はもう一度笑う。
だが今度は、あなたにはわかるはずだわ、と続けた。

そうして。


沈黙が表しているのは不快か怒りか戸惑いか。
初めてまともに明かす、自身のこと。
自分にとっては当たり前のことでも、彼にとってはそうではない。

……わかっている。そんなことは。

それでも、伝えなければいけなかった。今。



やりきれないような溜息と想いを言葉にするもどかしさ。
怒涛の勢いで溢れる感情は何色だろう。

　　――思い出したんじゃないのか。
　　――おかしいだろ。
　　――なんでだ。
　　――なんでそうなるんだよ。

苦笑する。ほんとうに、なんでだろう。
聞けば聞くほど、普通じゃない。

どこか茶化すような響きも一瞬で、彼女は微笑む。
笑顔は力だから。



咲という文字にはわらう、という意味がある。
だから、よくわらう子になりますようにという祈りを込めて。

咲良。

わたしは、そう名付けられた。
名前を置いてきても、失っても、本質は、変わらない。

（『ぱろろ棍』を構え）