…メィレーの姉ちゃんは、時々突飛なことを言い出す。



「私の理論が正しければ、この方法で創れるはず」
「魔力そのものが時間という性質を持ち合わせているならば、それを形と成すだけで、メルンテーゼに身体を適応させて、エンブリオになるはずだ」
「不完全な存在は世界への適応を開始する。その際に、エンブリオになることは【増幅】の例を見ても明らか」


「だから、私はエンブリオを創るわ。」



なんて、夢物語みたいなことを言いやがるんだ。





でも、姉ちゃんならやりかねねぇ。
オレっちにはわかる、あの姉ちゃんがどれだけすごい奴なのか。
だからオレっちは、見届けるぜ。




―――おい、おい。

「あァ？んだよ、またおめえかよ」
『またおめえか、じゃねーよ……オレの身体返してくれ』

自分の中から声が聞こえる。
なんてことはない。存在を『喰った』ラタトスクが、今も消化されていないまま残っているのだ。


「それは無理だっつって何度も言ったろがよォ……。オレっちは、メィレーの姉ちゃんを見届けてから死ななきゃなんねぇんだ」
『オレの境遇もちったァ目向けてくんねぇかね』

嘆息が聞こえる。
ラタトスクは、どうやらオレっちに呆れ果てているようだった。


『お前にだってわかんねぇわけじゃないだろ？自分の力がだんだん消えていってるのを。自分の身体がだんだん思い通りに動かなくなっているのを。大きな翼が広げにくくなってきているのを。…わからねぇわけじゃないだろ』
「…………。」

わかっている。
オレっちは、ラタトスクに逆に喰われ始めていた。
エンブリオの貧弱な器では存在を二つも抱えられるわけがない。
その結果オレっちの身体の中で、戦いが始まっていたのだ。どちらかの存在を掛けた、サバイバルが。
ただでさえ力の差があるのに、勝てるわけがない。当然だ。


『……なァ。オレだって、お前に一度だって負けた身だ。それに、何週間も寝食を共にしてりゃあ情だって沸くサ……頼むよ。オレに、身体を返してくれ。そしたら、オレがお前を喰わないように置いておくぐらいは、できる』
「…それは、できねぇ」
『…このままじゃ、消えるんだぞ、お前』

「オレっちは……オレっちのまま、メィレーの姉ちゃんと共に居たいんだ」

キヒ、という声が聞こえる。

メィレーの姿が、無い。

メィレーの姿が、無い。