『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.09.09.03:53、とある施設にて――


　金髪の少女もアオイを知っている。知っていても当然なのか。人格は
違えど、金髪の少女と銀髪の少女は同じ人間なのだ。二人がお互いの
情報を共有しているのか、個別の情報なのかは判らないが、同じ経験を
経ているのは違いないだろう。
「性格も仕草も違うけど……容姿はそっくりね。アオイに双子がいたら、
こんな感じなのかしら？」
「デートした方のお嬢さんも知っていたが、君も知っているのか？」
「ええ。彼にはよくお世話になったの。本当の兄のように慕ってたわ。
私も、あの子もね。本当の家族みたいだったの」
「家族？　血縁ではないのだろう？」
　俺の情報ではアオイに家族は居なかったはずだ。
「うん。そうだけどね。お兄さんはロボットだから解りづらいかな？
血縁じゃなくても、家族のような絆は出来るんだよ」
「絆か」
　その時、警告音が鳴り、警告のメッセージが現れた。メッセージは自動的に
機械音声で読み上げられる。
「間もなく強制的に終了します。直ちに退避してください」
　高負荷の連続だ。強制的に終了してもおかしくない。だが。強制的な停止は
外部からもされようとしていた。強制終了の間に処理するべき情報が意識を
押し流そうとしている。様々な高負荷による処理の限界も来る。
「くそっ！　肝心な時に！」
「……あら、残念だわ。今日の御茶会はお開きね」
「待ってくれ！　お嬢さんが2077年12月24日を指定した意味を知りたい！」
　金髪の少女は驚いたように目を見開いたように見えたが、すぐに笑みを
浮かべて、片手を振った。
「うふふ。お兄さん、その日を指定した理由は、お兄さんにとって
素敵なことがあるからよ。別に深い意味はないわ」
　笑ってはいるけども、どことなく寂しそうな笑みだった。
「また会いましょう。ロボットのお兄さん」
　そこで、俺の意識は電脳の世界を抜け、現実の世界での本体の活動が
強制的に停止させられた。外部の誰か……恐らくはぽちだろうと思う。
ぽちが俺の異変を察して強制的に機能を停止させたのだ。俺にとっては
些細なことなのだが、端から見れば本体に異常を生じさせていたようだ。
「起きてよ！」
　ぽちの声を聞きながら、機能が停止した。


　数時間後に再起動した俺は、マスターの怒りを買うことになるのだが、
これもまた、今の俺にとっては些細なことだった。