例え数が多くてもいつもの様に如何にかなると少し奢っていたのだと思います。
どんな困難でも諦めずに二人で頑張れば切り抜けられる･･･そう思ってました。

でも現実は一切の甘さも無く、私の理想とは真逆に進んでいきます。

･･･数の暴力と呼べる魔物の一斉攻撃に、盾にしていたアイスエレメントが一瞬にして蒸発。
そして瞬く間に盾を喪失して無防備になった私に、間髪入れずの追撃が襲い掛かります。

盾を失った事での焦りと、地中からの不意打ちに近いその追撃によって私の身体は激痛と共に宙高く舞います。

ドシャッと地面に落下した衝撃と体中の痛みが襲い、私の意識が朦朧としてしまいます。
落下の際に頭の打ち所が悪かったらしく、目が霞んで周囲が殆ど見えず、体中の痛みで手足を動かせなくなってました。

一瞬アラヤちゃんの叫ぶ声が聞えますが、何かの大きな音によってその声は聞えなくなります。
多分私の事で気を取られた隙に魔物の一撃を受けたのだと思います･･･私のせいでアラヤちゃんが･･･。

「アラヤちゃんごめんなさい…」と心の中で何度も謝罪していると、
ゆっくりと血の気が引いていく感覚を覚えて、段々と意識が遠くなっていくのを感じます。

徐々に聞えてた音が聞えなくなっていく。着実に『死』へ近づいていく。
いやだ、死にたくない、と心で願ってもピクリとも動かない身体ではどうしようもなかった。
霞む目の瞼がゆっくりと閉じていく。ここで意識が途絶えればもう二度と目を覚ます事はないと思う。

心残りがあるとすれば、アラヤちゃんに最後まで迷惑をかけた事。
アラヤちゃんのお姉さん、見つけて･･･あげた、かった･･･なぁ･････････。

･･･････････････




「･･･だめ、まだ死んではだめ──『再起再動《リブート》』」




･･･････････････

暖かみのある淡い光を受けてながら聞き覚えのある声に名前を呼ばれて私の意識が戻ります。

･･･呼び声の主はアラヤちゃんでした。
翼は消えていて体中ボロボロで傷だらけの状態の中で、回復魔術を使って私の事を回復させてくれた様でした。

アラヤちゃんはぼんやりしている私の手を握ると、残り少ないであろう自分の魔力を手を通して分け与えてくれます。
魔力の分与が終わると、それと同時に少し離れた場所で何かが崩れる大きな音が聞えます。

音のする方向に視線を向けると、そこには氷の壁が亀裂と共に崩れていき、その奥から魔物達が現れてきます。
あの氷の壁はアラヤちゃんが作り出した物らしく、魔物達の足止めと時間稼ぎの為に生成してた様です。

どうやら私が意識を失ってからまだ数分も経っておらず戦闘継続最中でした。

回復魔術のおかげで死は逃れた…けど全身の痛みは残っていて身体を上手く動かすのは少し厳しい。
それでも崩れた氷の壁から数匹の魔物達がこちらに向かってくるのを確認すると、
アラヤちゃんに手を借りて立ち上がり急いで戦闘態勢を取ろうと試みます。

アラヤちゃんが真剣な顔で私の方を見向くと小声で「危なくなったら一人で逃げて」と告げてきました。
現状下の不利な状況を見てのアラヤちゃんの判断だと思います。

誰かが･･･アラヤちゃんが犠牲になって一人で逃げるなんて、"自分が犠牲になるなら未だしも"私にはできない。できる訳がない。
アラヤちゃんの申し出は嬉しいです。でもそれだけは無理です。私の心がそれを拒みます。

もしも私がそれを一度でも行ってしまえば、きっと私の心は砕かれた氷の様になってしまう。
そうなればもう元には戻らないし戻れない。それだけは絶対に嫌です。
だから私は･･･

全身に張り巡る魔術回路をフル稼働させて術式を展開します。全身の激痛なんてもはや気になりません。
出し惜しみもしない。限界以上の魔術行使、デメリットなんてもう関係ない。
目の前の敵を排除して、二人で生き抜く･･･ただそれだけの為に。