暫く前からの話だ。
僕の悪魔がずっと耳元で囁いていた。

全てに復讐しろ。
暴力を以て弱者を捩じ伏せろ。
今までの憂さを晴らせ。
そうだ、復讐するんだ。
何もかもが疎ましい。
自分を壊した世界が憎い、憎い、憎い。

それはもはや、僕なのか、僕じゃないのか、僕の一部なのか。
意識は別に保っているはずだが、記憶は遥か以前から混ざり合っている。

孤独でかわいそうな悪魔のメヌエモヤールも、
メネの名前を拝借する僕も、この声は自分ではないと思っている。
しかし、そんな筈はないんだ。確実にどちらかの声なのだ。
けれども記憶を手繰ってそれを選り分けようとすると、糸が途中で切れている。

お互いに隠蔽された部分があるのだ。
それを無理矢理にこじ開けるのは精神の崩壊を意味する。
今ここで正気を手放したら、それはランさんを裏切ることになる。
わざわざ自分の心臓をナイフで抉るなんて、平和な時の娯楽で十分だ。

今は耳を塞いでやり過ごすしかなかった。
悪魔の声に真実の感情が含まれていないとは言わないが、あまりに内容が邪悪だ。
あれは呪詛で、破滅の声だから、耳を傾けた者は滅びる。

僕は平和な日常を取り戻したくて一揆に首を突っ込んでいるのであって、
決して暴力を振って怨みを晴らす為に戦っているわけじゃない。

たとえ僕の本音がどす黒い怨嗟にまみれていたとしても、
本当に今までしてきたことに向き合おうと思うのなら、
建前だけでも。表面だけでも。この考えを死ぬまで守り通さなければならない。