『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2075.09.09.03:12、とある施設にて――


　夢の時系列も、世界観も、ばらばらだ。夢に秩序も混沌もなく、
何もかもを一つに詰め込んでいるような世界だ。
　単に処理の軽いものから順に見ているというわけではないらしい。
見せられる順番に規則性は見られない。怠さ……処理の重さを
感じるのは夢が原因ではなさそうだ。



　恋ってどんな感じなのでしょうか。甘いものですか。それとも、
苦かったり、辛かったり、酸っぱかったりするものですか。


　大木のある不思議な湖だ。大木の上には小屋があり、ウッドデッキに
設置された木星のテーブルと椅子で誰かが寛いでいるようだった。
　銀髪に赤い瞳、黒いドレスの女性だ。少女と初めてであった時、
二つの女性の映像が一つに重なった。あの時の片方の女性だ。
木製のテーブルの上に置かれたグラスを見つめ、マドラーでグラスの
中をかき混ぜている。冷たい飲み物らしい。氷のような音がした。
　女性がふうっと息を吐いた。白い頬が桃色に染まっている。
「……これって、やっぱり、恋なのかな？　あの人を意識すると、
何故か……胸がとてもどきどきするのよ」
　女性は呟いた。クッキーをつついていた白い小鳥と黄色い小鳥が
顔を上げ、白い小鳥が口を開いた。
「ほほう、それは恐らく恋だね」
「んだんだ。相手が気になりだしたら、恋に違いねぇべ」
　黄色い小鳥がクッキーを突きながら頷く。
「お嬢さんもいい年頃だ。そろそろ気になる異性が出てくる頃だな。
それで、お嬢さんが気になっている相手は誰だい？」
　桃色の頬が、更に赤くなる。
「ここから南西の村のパン屋の息子さん。笑顔がとても素敵なの」
　黄色い小鳥がクッキーの欠片を飲み込み、答える。
「あー、その兄ちゃんなら知ってる、偶にパンの欠片を貰ってる。
いい兄ちゃんだよな」
　白い小鳥が言った。
「あぁ、私も知っているな。お嬢さんがショックを受ける前に
言っておく。この恋は諦めなさい」
「どうして？」
　黄色の小鳥は言った。
「お嬢さんは偶にしか村に行かないから知らないべ。おら達はよく村へ
行くから知ってるけど、あの兄ちゃんなら、お隣の家の娘さんと
恋仲だべ。らぶらぶってやつだ」
「ええっ！　そんなぁ、あの子と恋仲だったなんて……」
「諦めるか、奪うしかないべ」
「はぅ。奪うなんて、そんな酷いことは出来ない。らぶらぶな人達を
引き裂く気はないよ」