地下水路には以前と何も変わることなく水音が響いている。聞こえる足音はせいぜい自分のもの程度。しかし以前とは状況も随分変わっている。天蓋庭園に座する新王とそのうちに宿った強制型エンブリオ、そして魔神としての力を取り戻したベルフィ、その先に広がるという荒野。それを見て尚今更この場所に来る理由があるものは少ない。例え水が涸れ果てて流れの音が消えたとして、響く足音はそう多いはずはないだろう。
　そんな場所に来た理由は大部分気まぐれだ。行きたい場所も特に思い当たらず、存在を伝え聞いている強敵を打破できるほどの力があるわけでもなく。連絡が取れるまでの暇潰しが大半を占めるといってもいい。
　そんな中、理由らしい理由のたったひとつは。

　話を聞くことだった。
　人は少なく、水が音を遮るこの場は、あまり人には聞かれたくない話に向いている。

良心的、と言われれば苦笑を浮かべるも否定はせずに。

口を噤ませた竜には、ありがとう、と言うようにただ黙って視線を向ける。
それから、口を開いて。