昔昔のお話。

風花、と呼ばれる種族には羽があったといわれるはなし。
本当は、それは羽でもなんでもなくて。
銀色の髪に、青い目、とがった耳を持つその生き物には、
空の祝福があって。
背中には、世界のちからを飲み込む「くち」のようなものがあって。
それは背中に大きく根をはって、おおきく、おおきく呼吸をしていたんだって。
世界の力を、
魔法のちからを大きく飲み込んで吐き出すそのくちは、
その呼吸は、大きく星のように光って尾をひいて。

それが翼にみえる、という伝説がある。

空から降りたとも、堕ちたともいわれる風花の民は
滅びたともいわれるけれど、
それとおんなじ翼の痕が　僕にもある。

母さんにも父さんにも、
人に絶対背中を見せてはいけないとか、
このことを話してはいけないよと　何度も何度も言われていたんだ。

僕の背中のその痕は
父さんのように、魔術の力への変換も上手じゃなくて
母さんのように、人を癒す力の花への変換もできなくて
ねえさんのように、誰かを守る壁へも換えられない。
妹のように、自分の強化へも使えない。

ただだた、溜め込んで
のみこんで、
吸い込むだけのもの。
昔はその溜め込む量にも耐えられなくて、くらくらしていただけの「くち」。
溜め込む領域を増やすために髪を伸ばして、
少しでも使うために魔術を覚えた。
皆みたいに強い力も放てない。
マグのように上手く癒しの力に変換することもできない。
溜め込むだけの、ふくらませるだけの、ただのいれもの。

わすれたわけではない、
ここに来れたから、見れたものがいっぱいあるよ。
ここにきて、皆と一緒に学べたから、知れたことがいっぱいあるよ。

まだ、ここでいっぱい知りたい。
調べたい。
学びたい。
いっぱいたくさんのこと、見つけたい。

でもね、だめなことは、僕が一番わかっているんだ。
この世界は、僕の肌には合わない。
僕が、この世界に合わせられない。

ちからの大きい世界なんだと、痛感する。

血肉をまとっていても、この魂は、僕を呼ぶ彼らに近いんだと。












ぺらり、と大ぶりのノートのページをめくる。
おいしかった夕飯のメニュー。
エンブリオたちの足型。
皆でみた景色のスケッチ。
いつか拾った花の押し花。
僕の日記。

隅っこにいっぱいつづった、たのしかったとありがとう。

たくさんの、ありがとうを、ちゃんとつれて帰りたいんだ。





「あのね、皆に、はなしがあるんだ」