(※引き続き番外編。
　 別サイドのお話。
　 その前に最初に整合性をとる為の話……
　 ネタにできていいなって思った自分は首つっていいと思う。)

「魅月。」
「何かしら？」
不意に私に真白さんが話しかける。
「……突っ込みたくなかったけど……
　流石に突っ込みきれずに聞きたいことが……
　美白って名前だったはずなのに、
　いつの間にか真白で呼び方や名前が固定された気がするけど、
　一体……」
どうやら誤魔化しきれなかったらしい。
もともと誤魔化すつもりもなく、
聞かれなかったらそのまま押し切るつもりだった辺り、
我ながら性質が悪いが。
「名前の由来を話しながら思ったのよ。
　美白という名前は素敵だけど、
　それよりも、真白の方が似合ってるんじゃないかって。
　何者にも染まらず、
　真っ直ぐ真っ白に育ってきた事も考えると。
　態々訂正を告げなかったのは……」
「告げなかったのは？」
「からかいたくなったから。」
「……」
「……」
正直にいう私に、
まるでブリザードのような極寒の視線を無言で向ける真白さん。
まぁ、当然といえば当然か。
彼女は誰よりも真っ直ぐで、
正直なのだから。
「もっと早く気づくかと思ってたのだけどね。
　いつ気づかれたのかしら。」
「気づいたら私も自分の名前を真白だと思ってた辺り、
　ものすごい誘導技術ですよね。
　全然全くほめられた事じゃないですけど……！
　気づいたのはついさっきです、
　名前をくれたときの事を思い出して。」
「なるほど、道理ね。
　ま、最初に考えた名前もいいけど、
　真白の方がいいわ。
　なら最初からとは思うけど、
　人に名前をつけるというのは本当に難しい。
　――心配しないでも、
　それ以上変えたりしようと思わないわ。」
「当たり前です！
　もう……！」
顔をぷくっと膨らませて怒らせる姿が可愛い。
思わずくすくす笑ってしまった。
「ふふ、ごめんなさい。
　お詫びってわけじゃないけど、　
　今日は一日付き合うわ。」
「絶対ですよ？
　もう……魅月さんだから仕方ないとは思いますけど、
　二度とこういうからかい方は駄目ですからね！
　絶対ですからね！
　ふりじゃないですから……！」
「ふりね。分かってるわ。」
「ちーがーいーまーすぅぅぅぅぅぅ！」
もう、
本当にかわいらしくてからかい甲斐があってしょうがない。
とはいえ、
今回の件はちゃんと反省しないといけないわね。
真白さんの頭をなでながら、
きちんと心に刻んでおくとしよう。
忘れないようにしっかりと。
――関係を壊すのは本意ではない。
関係が続く事が私の本意なのだから。

「――。」
「――？――。」
「――！――――。」
「―。」
「―。」
魅月さんが男の人と会話をしている。
雰囲気からすると、
男の人は隙がなく、
ぱりっとしたスーツを着こなしている。
テレビで見る公安とかその辺りの人のような様子に、
私はピンと来た。
きっと彼は魅月さんの事を知っていて、
魅月さんのお仕事にかかわりのある人に違いない、と。
もちろん違う可能性がある。
それに、合っていたとしても、
はぐらかされてしまう可能性が高い。
私と彼とでは経験も、
踏んできた場数も違うに決まっている。
だけど――
これは大きなチャンスなんだと思った。
だから、私は――
「あ、あの！」
魅月さんと別れてどこかへ行こうとする男へと大声で呼びかける。
このまま距離をとられてしまえば、
きっと見失ってしまう。
私の下手な尾行くらいかわして消えるくらい、
相手にとっては造作もない事だろうから。
それを避けるには、
先手をとって捕まえるしかない。
何から何まで圧倒的に不利。
そんな私に残された手段はたった一つ。
真っ直ぐ正面からぶつかるだけ。
もしも、
あの男に勝てる点が一つだけあるとするならば、
友達への想いその一点だけだろろうから。
「ひょっとして、私を呼び止めたのかな？
　どうかしたのかい？
　お嬢ちゃん？」
「さっき、私と同じ制服の女の子と話していましたよね。
　一体何を話していたんですか？」
「ああ、大した事ではないよ。
　道を聞いていただけだけど、
　一体どうしたのかな？
　彼女に――」
「嘘、ですね。」
案の定誤魔化そうとする男の人に、
私は嘘と断じる。
そんな私の言葉に男は少し不快そうに眉をひそめ――
「嘘だなんてどうしていえるんだい？
　私は彼女に道を聞いた。
　それだけなのに何故問い詰められるのか理解ができないね。」
「彼女は私の友達です。
　だから分かります。
　もし、本当に道を教えただけなら、
　あんなに真剣な表情はしません。」
「――へぇ。
　どうしてそう言いきれるんだい？
　というより、
　なんで私にそんなにも食って掛かろうとするのか――」
「それはあなたにも分かるんじゃないですか？
　そして、確信がもてました。
　私は貴方に用があるから、です。」
ピクリ、と、ここで初めて男の表情に反応が出た。
表情は変えていたが、
感情を押し殺す癖があるからだろう。
目と口元だけは感情が動いてなかった。
それが少し揺れ動く。
本人も多分意識してないだろう。
そして、
魅月さんと付き合うと、
こういうことが分かるようになってたんだと、
少し自分に落ち込む。
人を疑うわけではないけど、
相手を本気で理解しようとした結果なんだけど……
友達ながら、
本当に一番の嘘つきだと思い出させられて。
「――私に用、
　といわれても、
　君と関わりが無いし、
　さっきの女の子とも関わりは無いんだけどね。
　用をいわれても何も出来ないんだけど。
　それより私は先を急いで――」
「彼女の友達から情報を提供してもらう、
　その代わりに私のお願いを可能な範囲でかなえてもらう。
　無理なら断ってくれてもいい。
　その場合でも私は情報をきちんと提供する。
　そんな取引をしたいのですけど、
　駄目でしょうか？」
「……」
「……」
しばらくじっと見つめあう。
正直な話、
怖い。
ものすごく怖い。
だけど、
ここで目を逸らすわけには行かない。
ここで引いたらもう二度と関わるチャンスなんてないのだから。
「……提案ですが、
　お互い何も知らなかったという事にして、
　綺麗にわかれませんか？
　貴女が彼女の知り合いというならなおさらです。
　私は彼女と敵対したくありませんので。
　手を出す事はしなくても、
　私と関わる事自体彼女は嫌う。
　それくらい貴女ならご存知ですよね？
　こうしていうのも貴女への敬意を表してとも伝えておきますよ。
　誤魔化そうと思えば誤魔化せますが……
　貴女は立派に真っ直ぐ私と交渉したのですからね。」
だが、その甲斐あって、
何とか彼に譲歩を引き出す事には成功できたみたい。
だけど、
ここで納得してはいけない。
それは妥協。
――妥協を受け入れるのは簡単で楽な道だけど、
私が望むのはその先にある。
妥協したのであれば何も変わらない。
それどころか、
きっと私は魅月さんを友達といえなくなる。
だから、
私は真っ直ぐに踏み込む。
「友達だから、
　友達だからこそ、
　そこで足を止めることは出来ません。
　でも、絶対にはいい過ぎかもしれませんけど……
　損はさせないつもりです。
　――私のお願いの内容を聞いていただけますか？」
そんな私の様子に、
これ以上どうこういっても、
私は止まらないし、
誤魔化しようも、
他に手もないと判断したのか、
彼は大きく息を吐き、
肩をすくめ――
「まぁ、とりあえず聞いて判断しましょうか。
　怒られるとは限りませんし、
　怒られそうならお願いを断ってもいいと聞いていますしね。
　ええ、いいでしょう。
　聞きますよ。
　一体貴女の望みはなんですか？
　可能な範囲なら叶えましょう。
　といっても、可能な範囲でなければ即座に断りますよ？」
話を聞いてくれると快諾してくれたようなので、
私は遠慮なく願いを口にした。
「ええ。簡単な話です。
　将来、貴方達の職場につくにはどうしたらいいですか？」
「――は？」
そんな私のお願いの内容を聞いて、
ぽかんとした表情を浮かべる彼にかまわず――
「流石に勉強をしていい大学に入って――
　それでどうにかなる仕事ではないような気がしますし。
　公務員になったとしても、
　貴方達の仕事に通じるとは限りませんし……
　公私混同の可能性なら大丈夫だと思うんです。
　彼女と親しい協調路線を築く上で、
　友人のような親しい人がいるというのは、
　むしろ逆に強みになると思いますし。
　知りすぎた人間の監視にもなる。
　お互いにとって利益があると思うんです。
　それで……
　どうすれば貴方達の職場に就職する事ができますか？
　私が力不足で駄目なら仕方ありません、
　諦めます。
　ですが、あがけるならあがいてみたいんです。」
「……」
私の真っ直ぐな気持ち、
真っ直ぐなお願いに、
真剣な顔で考えてくれた。
少なくとも、一考に価するお願いだったには違いない。
「……」
だからこそ、
私は待つ。
どんな答えが返ってくるかは分からない。
だから、
どんな答えがかえってきてもいいように心の準備を整えながら。
そして、出された答えは……
「そうですね。
　２，３日いただけますか？
　ここで私一人で答えを出して答えをいう訳にはいきませんので。
　ですが、
　個人的な意見をいいますと、
　ありがたく、悪くない申し出だと思います。
　ですが、
　私達と一緒に仕事となると、
　やりたくない事もやらされるかもしれませんよ？」
「やりたくない事やらされても、
　魅月さんがそういうの凄く嫌って、
　不利益にしかならないだろうからないと思うんですが……
　もしあるとしても、　
　普通の仕事でも遭遇するような事では……」
「……それもそうですね。
　ぶっちゃけそれで彼女との関係が完全に壊れるような話なら、　
　こちらで握りつぶしますよ。
　失敗したっていえばいいですし、
　それで不服ってなって起こった大惨事考えると、
　迂闊な真似は絶対しないでしょうし。
　ま、
　ともあれ、
　そこまで考えれてるならいうことはありませんね。
　もしお願いを叶えて差し上げる事になった場合、
　こちらの見習いとして色々動いてもらいつつ、
　学業もきっちりこなして上位に入り続ける……
　という辺りになりそうですが、
　大丈夫ですよね？
　信頼しても。」
「もちろん、疎かにするつもりはないですよ。
　今の私は学生ですし、
　きちんとお仕事に就ける下準備もまた仕事のうちになりそうですし。
　それに、
　こちらの我侭からのお願いに、
　ここまで快く対応してくれてる事に感謝しないと。
　ちなみに情報については、
　私がそちらの所属になったなら、
　特段いうことはありませんよね。」
「よろしい。
　それにしても、まだまだ未熟とはいえ、
　さすがあの人の御友人という訳ですか。
　少なくとも鍛え甲斐はありそうというか、
　ありすぎて将来が怖い気もしますが……
　まぁ、その時悩むのはもっと若い子達だから
　別にどうでもいいですね。
　と、長々と話をしてもしょうがないですし、
　私はこれで。
　では。」
「はい。ありがとうございました！」
軽く頭を下げて去っていく男の人に、
私は見えなくなるまで頭を下げ続ける。
感触は悪くなかった。
やることはやったと思う。
後は、自分は自分の出来る事を。
そう思って帰る私の足取りは、
いつもより幾分軽やかな気がした。

「――あら？」
「？
　どうかしたんですか？
　魅月さん。」
「……ああ、
　真白さんでも流石に耳を澄まさないと聞こえないのね。
　面白い話を霊から聞いたのよ。」
「なるほど、
　まぁ、同じ霊といっても、
　普段から魅月さんみたいにしてたら、
　流石に私はいっぱいいっぱいになりますから。
　それで、なんて？」
「睦美先輩と、
　咲良ちゃん。
　二人とも自分の進む道を決めたみたいね。
　ま、細かい事は聞いてないわ。
　私は知らないふりをしていましょう。」
「それは何よりですね。
　でも、知らないふりって……」
どうしてだろうと首を傾げる真白さんに、
私はクスリと笑って答える。
「秘密っていうのは、
　時に相手を驚かせたいって気持ちもあるものよ。
　特に、喜ばせたいという気持ちも一緒なら、
　知らない事にした方がいいわ。」
「あ、成る程……」
「それよりも……」
「？」
さて、これだけはしっかりといわないといけないだろう。
彼女達は道を選んだ。
なら彼女だけのけものというのもさびしい話。
「他の場所にいってみたいと思わない？
　大丈夫。
　貴女なら出来るわ。
　とはいってもちょっと苦労すると思うけど、
　やってみない？」
「お願いします！」
即座に答える真白さんに私は静かに微笑んだ。
これから此方も忙しくなりそうね。