かつて、一人の魔女が裁かれた。
追及の手は縁者にも及んだが、一部の者は自らが魔女狩りの推進者となることで矛先を逸らした。
彼らはその血から再び魔女が生まれることを何より恐れ、それはひとつの因習としてあらわれた。
――"子殺し"である。

魔女の容姿が言い伝えられ、その特徴を備えた赤子は殺される。
それは人の手による悲劇に他ならなかったが、代を経ると事態は徐々に怪奇の色を帯び始めた。
若い母親の錯乱や幼子の急死が相次ぐようになったのである。
一族はこれを魔女の呪いとして恐れたが、対処法も分からず子殺しの因習を止めることもまた出来なかった。
魔女狩りの狂熱が去った後も、これらは宿病の如く一族の歴史にあらわれ続けた。

そんな一族の悲劇に抗おうとしたのがブランシュだった。
愛しているはずの娘を前にして抑えがたい衝動に襲われた時、彼女は己の中の魔女に救いを求めた。
魔女の出現に対抗するべく始まった子殺しの因習こそが悲劇の源泉になっているのならば。
それに対抗できるのは、やはり魔女という概念なのだ。
自らを"狼の魔女"と定義し、その性質――家族愛と母性――に沿うことを誓う。
それは教会が邪悪と断じ、魔女と共に迫害の対象とした獣のもう一つの側面だった。
セロに連れられて森の中で見た狼の親子の姿に、彼女はそうありたいと願った。

彼女は人間の規範を越えたモノとなった。
その伴侶であるセロも、また。