体に魚の特徴を宿した人間。それが一般に魚人とか、魚族とか呼ばれる私達。

私の鰭はその形と、少し変わった鱗模様から、綺麗な純白の翼に見えるらしい。
だけど、私は有翼の種族とは違う。見かけだけ。

それでも「綺麗な鰭」と言われれば嬉しかったし、「天使のようだ」と言われれば誇らしかった。


そう、私は調子に乗って。軽く冗談のつもりで。遊びのつもりで。

深い意味もなく、天使様ごっこを始めた。







――クリッシツェーネバルの花畑には、何でも願いを叶える女神様が居りました。

女神さまは大層気難しく、願いを叶えてくれるかは気分次第。

病気の母を持つ少年は、その話を聞いて花畑まで行きました。

少年は女神さまに頼みました。

「お母さんが病気なんです。どうか治してはいただけませんか」

「いやよ。私は今、とっても退屈なの。もっと楽しい事がしたいわ」

女神様はしかめっ面をして答えました。

少年は困りました。どうにか女神様の機嫌を取ろうとして、少年は尋ねました。

「楽しい事ってどんなこと？女神様はいつも何をしているのですか」

女神様は答えました。

「お花を摘んだり、摘んだお花を編んだりしているのよ」

少年は更に尋ねます。

「どうやってお花を編むのですか」

女神さまは得意そうな顔をして答えました。

「簡単よ、お手本を見せてあげるわ」

沢山花を編むと、日はすっかり暮れていました。

「明日も来なさい。もっと色んな遊びを教えてあげる」―――

――今日は少年の元気が無いので、どうしたのかと尋ねます。

「お母さんが、元気にならないんだ…」

女神様は力こそ在れど、遊びたくて、もっと話したくて、叶えたくありませんでした。
しかし、女神様は悲しい顔をした少年と遊んでも楽しくなりません。

女神様は毎日来る少年の願いを叶えてあげることにしました。
願いを叶えてもらった彼は、嬉しそうに家へ帰って行きました。

「もう、来てくれないのね」

ひとりになった女神様は寂しくなって涙を流しました。
お日様が沈んで、お月様が昇って、沈んで、再びお日様が昇っても泣き続けました――

――すっかり泣きつかれた女神さまの元に、なんと、またあの少年が来たのです。

「女神様、ありがとう。お母さんの具合が良くなったんだ」
「どういたしまして」

女神様はもう一度少年を遊びに誘おうと思いました。その時、少年がまた話し掛けてきたのです。

「ねえ。僕のお願い、もう一つ聞いて」

女神さまは悲しくなりました。
自分と遊びに来たのではないと思うと、また涙が溢れそうになりました。

「今度、僕の友達を連れてくるからその子達とも一緒に遊んで欲しいんだ」


女神様は、大層喜んで――

もう誤魔化しきれない。









だから、謝ろうと思った。今までの全てを告白して、正直な話をしようと思った。



次の日、彼と話す浜へ泳いだ。











水が、酷く濁っていた。




海から見える街が、違っていた。


全てを焦がす赤と、煙に乗った塵と、轟音と、








後の事はよく覚えていない。

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　気を取り直すように一言、それからトレノたちに向き直る。

　また会えるかは分からないけれど。
　また会えることを信じて。

　彼らを見送る。
　獣人の彼は、真っ直ぐ前を見て歩いて行った、ように見えた。