だっこされながら、不思議そうに咲を見つめている

彼女の一語一句が、クリアに奥にまで突き刺さる。
今まで噛み合わなかったピースが明確にそのエッジを埋め、
不確かだったイメージがクリアになっていく。
その曖昧に隠されていたものが暴かれていくことが、たまらなく心地よく
それがまた、どうしようもなく恐ろしかった。

最後にわかれた時、自分は何を言ったか
何をしたか
そのもっと前
島での　
あの時は

うやむやにしてしまえていた事象たちが途端に熱を持ち、
その一つ一つが矢継ぎ早に自分に問いかける声がうるさすぎて脳が焼き切れそうだ。

怪我。
そうだ、怪我・・・
隠し通すべきだった。
触れなければ彼女は気づかずにいたかもしれない。
――少なくともそのふりくらいは。

この言いようでは怪我をしていることを認めることになる。
だが相手は彼女だ。誤魔化しきれるくらいなら、今ここにさえいないだろう。
そもそもこんな様で今更何を言ったところで説得力なんて・・・

上の空で答えた言葉尻を、彼女は逃さなかった。


マリィゴールド


それが、宿主の名。
忘れかけていたその名は、改めて彼女の口から紡ぎだされることによって、血が通う。
血が通えば、それには思念が移る。

たとえそれが残滓であれ、記憶として彼女を彼の中に刻むことは、
彼にとってあまり都合の良いことではなかった。
とりわけ彼女の友人だなどと、聞かされていたあとでは。

陣を自分に移せ、なんて
相変わらず彼女はとんでもないことを言う。
それは彼が、これをどんなものなのか伝えていないことにも大きく起因してはいるのだろうが。
――とはいえ、今の彼女にはある程度予測はついているのかもしれない。

そっと腹に手をあてる。
見た目こそ何もないが、呪術の記憶を取り戻した彼女にならその微かな振動が伝わったかもしれない。
彼女の目をちらりと盗み見て、薄い笑みを浮かべる。

ここまで一気に言って、ふっつりと言葉を切る。



どこかで鐘が鳴っている。

微かな喧騒が思い出したように窓から差し込んでくる。

軽薄な笑みを浮かべる。
目は、曇天色のレンズに隔たれていて見えない。

彼女は、黙って身構えている。何らかの気配を感じたようだ。